ここがすごい!ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

宇宙の過去を探る史上最強のタイムマシンにもなる“ハッブルの妹”

2015.04.30
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ウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡を構成する六角形セグメント。主鏡は合計18枚のベリリウム製セグメントから成り、赤外線を反射しやすいように24金でコーティングされる。(PHOTOGRAPH BY NASA/MSFC/DAVID HIGGINBOTHAM)
ウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡を構成する六角形セグメント。主鏡は合計18枚のベリリウム製セグメントから成り、赤外線を反射しやすいように24金でコーティングされる。(PHOTOGRAPH BY NASA/MSFC/DAVID HIGGINBOTHAM)
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 25年前の4月24日、史上最大で最高のハッブル宇宙望遠鏡は、スペースシャトル・ディスカバリーによって地球低軌道に打ち上げられた。時をさかのぼり、宇宙の秘密を解明することが目的だった。

 しかし、計画に20年もの歳月と15億ドルを費やしたハッブルが最初に送ってきた画像は、何ともひどいものだった。完ぺきな精度で作られたはずの集光ミラーに不具合があったのだ。

 3年後、次のシャトルが修理に向かった。その後ハッブルは世界クラスの革新的な観測結果を送るようになり、壮大な画像に多くの地球人が魅了された。

ハッブルの写真で星の旅へ。数千個の星が集まるWesterlund2と、周囲に広がる星雲であるガム29の中をゆく。ハッブルで撮影した写真を使って制作。Video: NASA, ESA, G. Bacon, L. Frattare, Z. Levay, and F. Summers (Viz3D Team, STScI), and J. Anderson (STScI)

 今でも現役のハッブルだが、永遠に宇宙を覗き続けることはできない。もうすぐ、ハッブルよりも大きい巨大望遠鏡が打ち上げられようとしている。

「これから、あらゆる種類の新発見が待っています。これにより、天文学の世界に再び変化が訪れるでしょう」と述べるのは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のプロジェクトサイエンティストを務める宇宙望遠鏡科学研究所のジェイソン・カリライ氏だ。

ウェッブに採用される新技術のひとつ、マイクロシャッタアレイ。数千個の小さなシャッタにより、1つの分光器で100以上の天体を同時に観測できる。(PHOTOGRAPH BY CHRIS GUNN, NASA GODDARD)
ウェッブに採用される新技術のひとつ、マイクロシャッタアレイ。数千個の小さなシャッタにより、1つの分光器で100以上の天体を同時に観測できる。(PHOTOGRAPH BY CHRIS GUNN, NASA GODDARD)
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姉をしのぐ妹

 ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、宇宙ベースの汎用天文台という意味では、ハッブルの後継にあたる。しかし、多くの関係者は2機を姉妹と考えている。短期間でもいいので2機を同時に運用し、姉妹の目で同じ天体を観測することを望んでいるのだ。

 2018年に打ち上げが予定されているウェッブは、その赤外線カメラにより、宇宙誕生からわずか2億年後の光を集めることができる。宇宙誕生2億年といえば、初期の恒星や銀河が形つくられつつあった時代だ。また、太陽を含む恒星を回る惑星の調査も行う。これらのすべてを、地球から100万マイルの高見から行うのがハッブルとは異なるところだ。

NASAゴダード宇宙飛行センターの巨大なクリーンルームで、2枚の試験用セグメントを検査する光学エンジニア。(PHOTOGRAPH BY CHRIS GUNN, NASA)
NASAゴダード宇宙飛行センターの巨大なクリーンルームで、2枚の試験用セグメントを検査する光学エンジニア。(PHOTOGRAPH BY CHRIS GUNN, NASA)
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 アポロ計画で重要な役割を果たしたNASAの長官にちなんで名づけられたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、口径6.5mもの鏡を持つ(ハッブルは2.4m)。六角形のベリリウム製セグメント18枚からなる反射鏡は、昆虫の複眼を彷彿させる。目的地までの2カ月の旅の間、すべてのユニットは折りたたまれた状態で運ばれる。それが展開する様子は、ハイテクな宇宙の折り紙とでも言おうか。

 ただし、計画にリスクがないわけではない。宇宙ステーションなどが太陽と地球に対してずっと同じ位置関係を保てる場所は5つあるが、ウェッブはその1つであるラグランジュ点L2を目指す。そこは地球から100万マイルも離れているため、不具合が発生してもレスキューできる望みはない。

膜のような形の巨大サンシールド。これを5層に重ねたシールドで、ウェッブを太陽、地球、月から守り、冷たい状態を保つ。飛行中、最初に配備されるパーツのひとつ。(PHOTOGRAPH BY NORTHROP GRUMMAN AEROSPACE SYSTEMS)
膜のような形の巨大サンシールド。これを5層に重ねたシールドで、ウェッブを太陽、地球、月から守り、冷たい状態を保つ。飛行中、最初に配備されるパーツのひとつ。(PHOTOGRAPH BY NORTHROP GRUMMAN AEROSPACE SYSTEMS)
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新たな光

 ウェッブは絶対50度を下回る温度に保たれるため、ハッブルとは異なる光の観測が可能になる。ハッブルは紫外線と可視光の観測に長けているが、ウェッブは赤外線を観測する。赤外線は可視光よりも波長が長く、宇宙を見るより大きな窓となってくれる。

 ゴダード宇宙飛行センターでウェッブのシニアプロジェクトサイエンティストを務めるジョン・メイザー氏によると、塵微粒子のせいで私たちの目には見えない生まれたての星や惑星も、ウェッブの目から逃れることはできないという。「ウェッブを使えば、不透明な雲の向こうにある、形成過程にある星の姿を見られます」

ノースロップ・グラマンという請負業者が、ウェッブ建設の大半を担当する。先ごろ、サンシールドの大規模実験を終えたばかり。5枚の断熱膜を用いた巨大サンシールドは、SPF100万の日焼け止めと同等の性能を持つ。(PHOTOGRAPH BY ALEX EVERS, NORTHROP GRUMMAN)
ノースロップ・グラマンという請負業者が、ウェッブ建設の大半を担当する。先ごろ、サンシールドの大規模実験を終えたばかり。5枚の断熱膜を用いた巨大サンシールドは、SPF100万の日焼け止めと同等の性能を持つ。(PHOTOGRAPH BY ALEX EVERS, NORTHROP GRUMMAN)
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 それに、赤外線を使えば過去にさかのぼることもできる。膨張する宇宙では、何10億光年の距離を伝播するうちに光の波長が伸び、可視光はやがて見える範囲から外れて赤外線になる。その赤外線を捕らえることができるウェッブは、史上最強のタイムマシンになれるのだ。

 ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのロバート・カーシュナー氏は「(ウェッブは)未知を探求するためのツールです」と述べている。

打ち上げ前に、ゴダード宇宙飛行センターの巨大な低温チャンバーでウェッブの各部品の試験が行われる。打ち上げ後の修理は不可能だ。(PHOTOGRAPH BY CHRIS GUNN, NASA)
打ち上げ前に、ゴダード宇宙飛行センターの巨大な低温チャンバーでウェッブの各部品の試験が行われる。打ち上げ後の修理は不可能だ。(PHOTOGRAPH BY CHRIS GUNN, NASA)
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想像を越えて

 ウェッブが観測するものは、ある程度は予測可能だ。形成過程にある星、太陽以外の恒星を回る惑星のほか、初期の星や銀河の様子を見ることができるだろう。ただしその様子は、暗闇の中の染みのようにしか見えないとメイザー氏は言う。「心の目で見なければ、あまり美しいものではないでしょう」

 しかし、驚きに満ちた発見もたくさんあるはずだ。「私たちの想像力は、観測結果を超えるほど強力ではありません。行って、見てみなければ」とカーシュナー氏。

 カーシュナー氏らは、ウェッブがハッブルほど人々を魅了するかどうかについては疑念を抱いている。結局、宇宙の果てに何が隠されているかは誰にもわからない。そこは物質とエネルギーが私たちの想像を超える形で存在する場所なのだ。

「宇宙は、本当に、本当に大きい。それは、私たちの想像の範囲や、私たちが持つ計器の能力を超えることがしばしばです。でも、私たちはついに追いつこうとしています」とシカゴ大学の宇宙学者マイケル・ターナー氏は言う。

「天文学者にとって、最もエキサイティングな時代がやってきます。私たちが解明したいのは、非常に多様かつ基本的な問題です。地球外生命は存在するのか? 宇宙は何からできているのか? 宇宙の膨張はなぜ加速しているのか? その運命はどうなるのか?」

ウェッブは、これまでの計器よりも過去にさかのぼることができる。宇宙の初期に誕生した星や銀河の観測、形成過程にある星や銀河の観測、太陽以外の恒星を回る惑星の調査、太陽系の監視などが可能だ。(ILLUSTRATION BY NORTHROP GRUMMAN)
ウェッブは、これまでの計器よりも過去にさかのぼることができる。宇宙の初期に誕生した星や銀河の観測、形成過程にある星や銀河の観測、太陽以外の恒星を回る惑星の調査、太陽系の監視などが可能だ。(ILLUSTRATION BY NORTHROP GRUMMAN)
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文=Nadia Drake/訳=堀込泰三

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