わな猟師といえば、ビーバーの毛皮を山積みにしたカヌーで川を下る辺境の男を思い浮かべるかもしれない。だが、ジャーナリストのトム・クヌードソン氏にとってわな猟師は、西部の森に入り、トラバサミでボブキャットを捕まえる男のことだ。クヌードソン氏は最近、米国のわな猟の実状について調査報道サイト『Reveal』に寄稿した。「米国のわな猟ブーム、残酷な道具に依存」という見出しが付いている。
毛皮の販売を目的とするわな猟師にとって、最も価値ある獲物はオオヤマネコの仲間ボブキャットだ。上質なボブキャットのコートは、15万ドルの小売価格が付くものもある。ボブキャットは絶滅の危機にさらされている種ではない。むしろ問題は動物虐待だと、クヌードソン氏は書いている。(参考記事:「動物大図鑑:ボブキャット」)
クヌードソン氏の記事には、驚くべき、そして痛々しい光景が描かれている。トラバサミと呼ばれるわなは、あまりにも残酷なのでオーストリアから日本、ジンバブエまで80カ国以上で違法とされている。そのトラバサミが米国の森で仕掛けられ、ボブキャットだけでなくほかの動物も犠牲になっている。
トラバサミに脚を挟まれた動物は、猟師が来るまでその状態で動けない。まさに拷問のような道具だ。挟まれた脚を自ら切断し、逃げ出す動物もいる。
トラバサミは地雷のように無差別だと、クヌードソン氏は指摘する。ハクトウワシ、ピューマ、さらにはペットの犬や猫など、さまざまな動物が誤って捕獲されている(参考記事:「消えゆく王者 トラ」)。
しかも、ほとんどの州では、わなを定期的に確認することが義務付けられていない。研究用の動物を捕まえる科学者たちはたいてい1日に1度はわなを見に来るが、例えば、ネバダ州のわな猟師は4日に1度で許される。4日もたてば、獲物はすでに死んでいるかもしれない。脱水や飢えが死因となることもあれば、ほかの動物に食べられていたり、逃げ出そうとして力尽きていたりすることもある。
猟師が来たときに生きていた場合も、試練が待ち受けている。銃を使うのが最も人道的だが、毛皮に穴が開いたり、血が飛び散ったりする恐れがある。そこで、一部の猟師は、棒の先に針金が付いたものをボブキャットの首に巻き、窒息させるという方法をとっている。ある獣医はクヌードソン氏に、「研究用のラットの方が、まだ人道的に扱われている」と語っている。
クヌードソン氏に話を聞いてみた。
――調査を行っていて最も驚いたことは?
ボブキャットの毛皮の行き先です。動物保護への懸念から、米国では毛皮がほぼ廃れています。それでも、ボブキャットの毛皮が中国やロシア、さらにはヨーロッパの高級店に送られているという事実には驚きました。毛皮の量にも驚かされました。年間5万匹以上が命を奪われ、外国の市場に輸出されています。野生動物の違法取引が大きく取り沙汰されている今、米国の野生動物が国際市場で合法的に取引されていることに強い関心を抱きました。
――トラバサミは80カ国以上で使用が禁止されていますね。
欧州連合(EU)では1990年代に禁止されました。ただし、EUは米国やカナダなど、トラバサミを使い続けている国から毛皮を輸入しています。これには矛盾を感じますね。米国とEUは包括的な契約を結び、米国側は最適な実施管理基準を策定することに同意しています。
より安全で人道的なわなの実現に向けて、いくらかの前進は見られますが、そうしたわなの採用は完全に任意です。しかも、基準を適用するかどうかは各州に任せられています。
――わな猟師は何らかの訓練を義務付けられていますか?
狩猟免許の場合、ほとんどの州で講習が義務付けられています。しかし、西部の多くの州では、わな猟師向けの講習を用意していません。当然ながら、毛皮の価格が高騰すると、多くの人が木材加工の仕事を捨て、1000ドルの値が付くボブキャットを捕まえようとします。こうした人たちの多くが未熟な初心者ですから、わなをどのように仕掛けるかも知りません。
――人道的なわななどありますか?
箱わな(動物を生きたまま捕獲する箱)を使うこともできますし、パッド付きのトラバサミもあります。獲物の大きさに合ったわなを選ぶとよいでしょう。そして、毎日見に行くことです。本当の意味で人道的なわなを目指すのであれば、発信機をおすすめします。わなに動きがあると、携帯電話にメッセージが送信され、すぐに確認できるという仕組みです。
――なぜこの問題が重要だと思ったのですか?
アフリカでゾウやサイが密猟されているのは、主に中国でこれらの動物の加工品が珍重されるためです。米国の人たちはこうした密猟に激怒しながら、自国で合法的に野生動物の命を奪い、中国に輸出しているのです。しかも、多くの場合、残酷かつ非人道的な方法で動物を捕獲しています。(参考記事:「密猟象牙の闇ルートを追う」)
食べるためや暖をとるため、野生動物を捕獲するのは仕方ありません。しかし、パリやドバイの誰かが5万ドルのジャケットを着るために、米国の野生動物を犠牲にしたいと思いますか? 議論する価値は十分にあると思います。