ブラジルの国立先住民保護財団(FUNAI)は2018年7月以降、アマゾンの「孤立部族」の動画を2本公開した。いずれも、外界から遮断された保護区に住む先住民を監視・保護するため活動の中で撮影したものだ。
最初の1本には、深い森の中で体格のいい男性が木を切り倒す様子が映る。これは、この男性を保護する役割を担うFUNAIのチームが、ごく近距離からこっそりと撮影したものだ。男性はブラジル西部のロンドニア州にある広さ70平方キロほどのタナル先住民地区で、過去22年間、1人で暮らしてきた。この保護区が作られたのは、伐採業者や牧場主から男性を守るためだ。彼以外の部族のメンバーは、80年代から90年代にかけて、そうした業者によって全員殺されたと見られている。唯一の生き残りであるこの男性については、その名前も、男性がかつて属していた部族の名前もわかっていない。
1本目の動画公開からしばらく経った8月21日、FUNAIはドローンから撮影したもう一つの動画を公開した。密林を切り開いて作物を植えたと思われる場所を、数人の人物が歩いており、1人は大きな弓を抱え、手に竹の矢を持っている。この動画は2017年、ブラジル西部奥地のジャヴァリ谷先住民区域を調査した際に撮影されたものだ。撮影は、フレシェイロス(矢の民)と呼ばれるこの部族に対して、残虐行為が行われるという噂が本当なのかを確かめることが目的だった。
2本の動画はどちらも、被写体の人物の許可無しで撮影され、公開されたものだ。彼らの権利をめぐる倫理上の問題もあるし、映像に触発されて勝手に彼らを探し出して接触しようとする人が現れる危険もはらむ。
こうした批判を承知でFUNAIが動画を公開したのは、ブラジルだけでなく世界中の人々に、今も孤立した部族がいることと、彼らが置かれている状況が日増しに不安定になっている現実を知ってもらいたいからだ。
「市民がこの問題を知って、議論が活発になれば、彼らの存在とその土地を守るチャンスは広がると考えています」と、FUNAIの孤立先住民部門の責任者、ブルーノ・ペレイラ氏は言う。「アマゾンで農地開拓や採鉱、木材の伐採が進めば、彼らのような部族は、世界の人々がその存在を知る前に姿を消してしまうこともあり得るのです」
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