コンゴ民主共和国のマンベツ族が、くすんだ灰色でネズミほどの大きさの哺乳類を西洋の科学者に紹介した際、ある逸話を伝えた。なんと、成人男性が背中に乗っても大丈夫だというのだ。1910年のことだった。
それ以降、のちにヨロイジネズミと呼ばれるようになったトガリネズミの仲間について、こうした伝承の由来を探る研究が進められてきた(2013年には、ヨロイジネズミの別種が、同じくコンゴ民主共和国で発見された)。
2019年、米イリノイ州シカゴにあるフィールド自然史博物館の博士研究員で哺乳類学者のステファニー・スミス氏が率いる研究チームは、高性能のX線装置を用いてヨロイジネズミの撮影を行った。すると、そのX線写真には、地球上の他のどの動物とも異なる脊椎が写っていた。
椎骨には、小さい指のような突起が千数百個もあり、互いにがっちり絡み合いながらも、驚きの柔軟性を生み出していた。シャクトリムシのように体を曲げ伸ばしできる哺乳類を想像してみてください、とスミス氏は言う。
さらに、椎骨の特徴からは、尋常ではないほど大きな力に耐えられることが示唆された。
「小型哺乳類がどうやって生き延びてきたかを理解することで、現生哺乳類の進化の過程に関する知見が得られます」とスミス氏は話す。氏の論文は、4月29日付けで学術誌「Proceedings of the Royal Society B」に発表された。
椎骨の物語は、多くの点で我々自身の物語だと言える。人間の進化の歴史を遠くさかのぼれば、トガリネズミに似たジュラマイア・シネンシス(Juramaia sinensis)という小型哺乳類に行き着くのだ。(参考記事:「最古の真獣類化石、1億6千万年前」)
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