北極のシロイルカがカリフォルニアの海に出没、科学者ら困惑

最も近い生息地から4000キロ、原因は不明

2020.07.14
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【動画】カリフォルニアの海で見つかったシロイルカ
2020年6月、サンディエゴ沖を泳ぐシロイルカが発見された。エコツアー会社「ゴーン・ホエール・ウォッチング」の経営者で、ホエールウォッチング船の船長を務めるドメニク・ビアジーニ氏がドローンで撮影した。

 北極海と周辺の海に暮らすシロイルカ(ベルーガ)が、そのはるか南、米国カリフォルニア州サンディエゴ沖で目撃された。サンディエゴは、日本の熊本や八丈島と同じくらいの緯度にあり、公式に記録された目撃場所としては最も南だという。

まさかシロイルカが

 発見されたのは2020年6月26日。ホエールウォッチングツアーの船長で野生動物の写真家でもあるドメニク・ビアジーニ氏は、6人のツアー客を船に乗せ、ミッションベイの沖合でクジラ(できればシロナガスクジラ)を探していた。別のツアーの船長、リサ・ラポイント氏にもクジラを見つけていないか無線で尋ねてみた。

「たった今、真っ白で背びれのない4、5メートルの動物を見たところ」とラポイント氏は答えた。「ちょっとほかにはない白さよ」

 シロナガスクジラでないのは確かだった。ザトウクジラやシャチなどよく見かける種でもなさそうだ。説明を聞く限りではシロイルカのようだが、まさかシロイルカがカリフォルニア沖にいるとは思えない。

 1時間後、ラポイント氏から連絡があった。やはりシロイルカだと言う。「決定的な証拠がなければ、誰も信じてくれない」ので、記録を残す手伝いをして欲しいと、彼女はビアジーニ氏に頼んだ。ビアジーニ氏はドローンを携えて、ラポイント氏の言う海域へ向かった。

 探すこと45分、船から180メートルほど先にその動物が浮かび上がった。「まぎれもないシロイルカが、目の前に現れました」とビアジーニ氏。「あまりに奇妙、かつ驚くべき出来事だったため」、彼はすぐに“市民科学者”モードに切り替わり、震える手でドローンを操作し、この思いがけない訪問者を撮影した。

 シロイルカが見られるのは通常、北極圏と周辺のカナダ、グリーンランド、ロシア、スカンディナビア、アラスカの海で、たいていは群れで泳いでいる。(参考記事:「動物大図鑑:シロイルカ(ベルーガ)」

 ところが今回ビアジーニ氏が撮影したシロイルカは、最も近い生息域であるアラスカから4000キロも離れた場所で、しかもたった1頭で見つかった。このシロイルカがどこから、なぜやって来たのか、科学者らは頭を悩ませている。

(出典:IUCN)
(出典:IUCN)
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なぜこれほどの旅に?

 北極圏から遠く離れた場所でシロイルカが見つかる例は、これまでまったくなかったわけではない。1940年の春に、米ワシントン州沖で1頭のシロイルカが目撃されているほか、マサチューセッツ州やニュージャージー州、日本でも見つかったことがある。2018年には英国のテムズ川をロンドンに向かって泳いでいたシロイルカに、ベニーというニックネームが付けられた。(参考記事:「シロイルカに不審なハーネス、ロシア軍に所属か」

 それでも南カリフォルニアにシロイルカが現れたのは驚きだ。この海域では近年、思いがけない生物の出没が増えているが、それらはたいてい気候変動やエルニーニョにともなって北上してきた熱帯地方の種だ。

 シロイルカがなぜこれほどの遠征に出たのかはわかっていない。「特別好奇心の強いシロイルカが長旅をしようとしたのかもしれないし、病気で方向感覚を失ったのかもしれません」と、米ロサンゼルス郡立自然史博物館で研究員として働くアリサ・シュルマン=ジャニガー氏は語る。

次ページ:数日後にも目撃情報

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