金星を取り巻く雲の中に、ホスフィン(リン化水素)が含まれていることが明らかとなり、生命の存在を示す証拠ではとの議論が持ち上がっている。9月14日付の学術誌「Nature Astronomy」に、論文が掲載された。
ホスフィンは、生命にとって死に至る有毒ガスであるにも関わらず、地球のような岩石惑星においては人間や微生物など生命からしか生成されないと考えられている。第一次世界大戦中に化学兵器として使用されたことがあり、現在も農業や半導体産業で使われている。自然界では、ごみ埋め立て地や湿地、さらには動物の消化管など、酸素の少ない環境にすむ一部の嫌気性細菌によっても生成される。
硫化物を食べる生命か
太陽系の第2惑星である金星は、長らく地球の双子と考えられてきた。大きさは地球とほぼ同じで、似たような重力と構造を持つ岩石惑星だ。人類は数百年前から、金星にも海があり、緑が生い茂り、豊かな生態系が栄え、生命にとって地球に次ぐ第2のオアシスとなりうるのではと期待してきた。
ところが科学が発達すると、実際には地球上の生物にとって金星は危険で非情な世界であることが明らかになった。表面温度は480℃にも達し、表面気圧は分厚い大気に圧迫されて地球の90倍以上もある。大気のほとんどは二酸化炭素から成り、硫酸を含んだ雲がこの星全体を覆っている。
それでも、金星の表面でなく、気候が穏やかな雲の中なら生命が存在できるのではという考えは、60年近く前からあった。1967年、カール・セーガンとハロルド・モロウィッツは「金星の表面環境に生命が存在するとの仮説は非現実的だが、金星の雲となると話は全く別だ」と、科学誌「Nature」に寄稿している。
金星の雲には生命の基本材料が含まれており、雲の中間層の気温と気圧は地球によく似ている。「半袖で過ごせる気候ですし、おいしい食べ物もたくさんあります」と、米ウェスリアン大学の惑星科学者マーサ・ギルモア氏は解説する。
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