新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンを富裕国が優先的に確保すると、各国の人口に応じて均等に配布した場合に比べ、死者数が数十万人単位で多くなる可能性があるとする報告書を、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏と妻の慈善団体「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」が9月14日に発表した。
同財団が米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)と共同で作成している年次報告書「ゴールキーパーズ・レポート(外部サイト(英語)へリンクします)」は、教育へのアクセス向上や飢餓撲滅、ジェンダー平等などを実現するために国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)について、達成状況を評価するもの。過去の報告書では、目標達成に向けて順調に前進していると評価していた。
ところが第4刊にあたる今回(2020年)の報告書では、ほぼすべての指標が、世界中の人々の生活の質が低下したことを示している。質の低下は特に、もともと苦しい状況にあった人々で顕著だ。
なかでもIHMEの調査結果が際立っている。ここ20年続いていた貧困の解消が、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)によって止まり、今年に入ってから推定3700万人が、1日1ドル90セント(約200円)未満で暮らす「極度の貧困」状態に追いやられたというのだ。
ゲイツ氏は9月10日に記者会見を開き、「パンデミックは、ほぼすべての側面で不平等を悪化させました」と述べた。可能な限り多くの命を救い、できる限り早くパンデミックを終息させるには、ワクチンと治療法の開発、製造、および全世界への公平な配布で各国が協力すべきだと今回の報告書には記されている。
現在、全世界で150種以上のワクチンが開発中で、そのうち8種が臨床試験の後期に入っている。報告書によると、当初完成した30億回分のワクチンを、仮に各国の人口に応じてすべての国に配布すれば、ワクチンが存在しなかった場合に比べて死者数を61%減らせるという。一方、そのうち20億回分を富裕国が買い上げた場合、33%の命しか救うことができない。この対照的な2つのシナリオは米ノースイースタン大学生物・社会技術システムモデリング研究所による試算だ。
「最も豊かな人々に配布するような使い方は間違っています」とゲイツ氏はナショナル ジオグラフィック英語版編集長スーザン・ゴールドバーグとのインタビューで述べた。「まず最終目標を設定し、世界のために前例のない方法で協力しましょうと皆に呼び掛けるべきです」(参考記事:「「貧困への逆戻りが起きる」ビル・ゲイツ氏に聞くコロナ下の世界」)
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