【解説】火星の岩石をついに採取、いずれ地球へ、NASA探査車

なぜ元三角州の岩なのか? 今後の計画は? 「パーシビアランス」が初成功

2021.09.11
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NASAの火星探査車「パーシビアランス」が、初の岩石サンプル採取に成功した。これを地球に送り、火星に生命が存在したかどうかの解明に役立てる計画だ。(IMAGE BY NASA/JPL-CALTECH/MSSS)
NASAの火星探査車「パーシビアランス」が、初の岩石サンプル採取に成功した。これを地球に送り、火星に生命が存在したかどうかの解明に役立てる計画だ。(IMAGE BY NASA/JPL-CALTECH/MSSS)

 NASAが巨額を投じて火星へ送り込んだロボット探査車「パーシビアランス」が、歴史的偉業を成し遂げた。地球へ送るための岩石サンプルの採取に初めて成功したのだ。密閉チューブに大切にしまわれたサンプルは、火星に生命は存在したのかという長年の謎を解明する重要な一歩となる。

 パーシビアランスのサンプル採取は先月にも実行されたが、この時はクレーターの底の岩石が風化して脆くなっていたせいで、崩れて失敗した。今回は場所を変え、長さ800メートルほどの稜線沿いにあった頑丈な岩を選び、指の大きさと同じくらいのサンプルを円筒状に切り出した。

 だが、今回も順調に進んだわけではなかった。最初の画像では、チューブの中にサンプルが入っていたのが見えたが、塵を除くために探査車がチューブを振ってみると、サンプルはどこかへ消えてしまった。その後1日かけて分析した結果、それはチューブのさらに奥深くまで入り込んでいただけだった。パーシビアランスは蓋をして、自分の腹部にチューブをしまい込んだ。

探査機のドリル内に収まった岩石のサンプル。(NASA/JPL-CALTECH/ASU)
探査機のドリル内に収まった岩石のサンプル。(NASA/JPL-CALTECH/ASU)
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 パーシビアランスは今後数カ月間でさらに数十個のサンプルを採取した後、最終的に全てのサンプルを箱に収め、火星の地表へ置く予定になっている。そして、将来打ち上げられる別の探査機がそれを回収し、地球で待つ科学者の元へ送り届ける。

 サンプル採取の他にも、パーシビアランスは搭載されている様々な機器を使って火星の地形をこれまで以上に詳しく調査し、今は消滅した川や湖にかつて微生物がいたかどうかの手がかりを探す。その舞台となるのは、数十億年前に隕石の衝突によってできた直径45キロのジェゼロ・クレーターだ。(参考記事:「【解説】NASAの探査車「パーシビアランス」が火星着陸に成功」

クレーターの中の古代湖

 ジェゼロ・クレーターは、イシディス平原の西端に位置している。このイシディス平原もまた、およそ39億年前に巨大な隕石の衝突でできた直径1200キロの巨大クレーターだ。その後、その中に別の隕石が衝突して、小さなジェゼロ・クレーターが誕生した。

 そこへ蛇行する川が流れ込み、やがて古代湖が現れた。水の流れは湖に入るあたりで緩やかになり、運ばれてきた砂や泥が湖底へ沈殿し、三角州ができた。

 このようにしてできた三角州がジェゼロには2つある。パーシビアランスは、そのうち西端にある大きな方の三角州を探査している。短期間のうちに堆積物が溜まったため、もし生命が存在したとすれば、その痕跡が埋もれて保存されている可能性がある。川は、およそ35億年前に干上がったとみられている。

 古代湖があった場所は最も低い場所ではなく、水は三角州の反対側にあるプリバ峡谷から流れ出ていた。入り口と出口があったことから、湖には常に新しい水が補給され、多くの生命にとって危険なほど塩分濃度が高くなることはなかっただろう。そこには、生命が存在しやすい環境があったかもしれない。

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