模倣がオリジナルに対する究極の賛辞であるなら、この工房は古代ギリシャ芸術への賛辞であふれている。
ギリシャの首都アテネの南にあるアギオス・イオニアス・レンティスの工房では、職人たちがミロのビーナスやアレクサンドロス大王の胸像、アルテミシオンのブロンズ像を忠実に再現している。(参考記事:「どっちが本物? パリの模倣都市、中国・天都城 写真21点」)
これらの像は、パルテノン神殿があるアテナイのアクロポリスや、スパルタ考古学博物館の土産店で販売されているほか、ギリシャはもちろん世界中の博物館や美術館に展示されている。カタールのドーハでは、地下鉄の駅でデルフィの御者などのブロンズ像が乗客を出迎えてくれる。
大理石やブロンズの像は紀元前12世紀から西暦600年まで続いた文明の輝かしい遺物であり、その影響は今も変わらないようだ。毎年、多くの観光客がギリシャを訪れ、アクロポリスの神殿にある女性像やデロス島のライオン像に驚嘆する。ギリシャ文化スポーツ省がつくったこの工房のおかげで、観光客は過去からインスピレーションを得た作品を持ち帰り、玄関やオフィスに飾ることができる。学者たちも研究に使用している。
この工房は1970年代、一つはギリシャの古代遺産のPRのため、もう一つは粗悪ではない土産品を購入してもらうという2つの目的でつくられた。その収益の一部は歴史保存活動に役立てられている。
「私たちの作品は世界中を旅します」と、工房で働いて30年になるマリア・ザフェイリ氏は語る。「私たちの像が博物館や美術館に展示され、何千もの目が注がれるのはうれしいことです。その結果、さらに多くの観光客がギリシャを訪れます」
工房は一般公開されていない。しかし、今回は特別に立ち入り許可をもらい、これらの合法的な模造品がどのように、そして、なぜつくられるかを知る機会を得た。
傑作のリメイク
工房の最上階では、神々や怪物、一般市民のレプリカに囲まれながら、塗装工、彫刻家、仕上工から成る15人のチームが1週間に数十の型を製作している。作業のベースになるのはオリジナルのマスターコピーだ。職人たちは、現物がある博物館や美術館、遺跡まで赴き、オリジナルの像をコーティングし、石こうや粘土を何層にも重ねる。
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