第2回 山極壽一(霊長類学):サル、ゴリラ研究から現代社会を考える(提言編)

 京都大学総長の山極壽一氏は、40年間アフリカで野生のゴリラの研究を続けてきました。ゴリラから学んだ、この星で生き続けるための条件について語っていただきます。

山極壽一氏(撮影:青木計意子)
山極壽一氏(撮影:青木計意子)
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 こんにちは、山極です。

 ぼくは子どものころ宇宙飛行士と探検家になるのが夢でした。でも途中で道を変更してアフリカに行き、ゴリラを見ているうちに、「人間はちょっと変なゴリラにすぎない」と思うようになりました。

 人間も生き物の一員として「身体感覚」を忘れないことが、地球永住のカギになるとぼくは考えています。

サル、ゴリラと比べてわかる人間の本質

 人間とオランウータン、チンパンジー、ゴリラはヒト科(Hominidae)の仲間です。サルとは3000万年前ぐらいに分かれているから、サルとゴリラの違いの方が、ゴリラと人間の違いより大きい。ゴリラはヒトの仲間(ヒト科)であってサルの仲間ではないことを確認しておいてください。

 ヒト科のなかで、人類は700万年前にチンパンジーと分かれました。人類らしい特徴として最初に現れたのは直立二足歩行です。それからだんだんと森林から草原(サバンナ)に出て行きます。二足の方が、長距離をエネルギー効率よく歩けます。自由になった手で何か物を運んだはずですが、それはきっと食物でしょう。食物の分配こそが重要な人類の特徴です。

私の地球永住計画

この40年間、野生のゴリラと付き合って学んだのは、この地球に生まれた生命として「身体のつながり」を忘れては生きていけないということです。これまで人間は五感を通じて様々な生命と交流してきました。食べるという行為はその最たるものです。人間どうしでも身体のつながりは重要で、それは150人以下の集団で接着剤の役割を果たし、高い共感能力による緊密な連携をもたらしました。

しかし、情報通信技術の発達によって人間は視覚と聴覚による世界を拡張し、脳でつながりあうことを覚えました。これから迎える超スマート社会はそれがさらに加速し、脳の機能さえ人工知能に代替されるようになるでしょう。人間が生物であることを忘れるとどうなるか。これまでの人間の進化を振り返って、未来の社会について考えてみたいと思います。

山極壽一

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