北アメリカでマルハナバチが激減

2011.01.05
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アメリカに生息するマルハナバチ「ボンブス・ペンシルバニクス(Bombus pennsylvanicus)」のクローズアップ(資料写真)。

Photograph by Bill Beatty, Visuals Unlimited
 かつて北アメリカに広く生息していたマルハナバチ属4種の個体数が激減している。だが、いまのところ原因は不明だという。 過去20年間で最大96%も減少していたのは、ボンブス・オクシデンタリス(Bombus occidentalis)、ボンブス・アフィニス(B. affinis)、ボンブス・ペンシルバニクス(B. pensylvanicus)、ボンブス・テリコラ(B. terricola)の4種。

 イリノイ大学のチームが、博物館収蔵の7万3000点以上の標本を新たに分析した。アメリカ全土の野生のハチが収集されており、マルハナバチの過去1世紀以上にわたる分布もわかる。研究では北アメリカの既存のマルハナバチ50種から8種を取り上げている。

 共同研究者でイリノイ大学昆虫学科助教のシドニー・キャメロン氏は、「4種の個体数は急降下しているが、繁栄している種もある」と話す。農薬や気候変動が原因だと断定するのは難しい。同じ地域で他の種が生き残っている理由が説明できないからだ。

 1つの可能性として考えられるのは、「ノセマ・ボンビ(Nosema bombi)」という侵入性の微胞子虫への感染だ。チームによると、この菌類は比較的健康な種よりも、激減している種で多く見つかっている。また、ノセマ・ボンビが広まっているヨーロッパで飼育されたマルハナバチが、減少が始まる直前の1990年代初頭にカリフォルニアへ輸入されていた。

 だが、関連性は定かではない。「感染症が原因だと言える状況証拠は目白押しだが、直接的な証拠に欠けるので因果関係がはっきりしない」とキャメロン氏は語る。 マルハナバチはミツバチと同様に花粉を主なタンパク源としている。野生種だけでなく、ブルーベリーやトマトのような数十億ドルの市場規模を持つ作物で受粉媒介に広く利用されている。理論的には、ノセマ・ボンビに感染しているハチがヨーロッパから輸入され、温室の通気孔から外に逃げ出し、野生の“同胞”に感染させたという仮説が考えられる。

 カリフォルニア大学デービス校名誉教授のロビン・ソープ氏は、「新しい病気の流行パターンと非常に似ているようだ」と話す。ソープ氏は数十年にわたり受粉媒介動物を研究、1990年代後半にマルハナバチ属の1種であるボンブス・フランクリーニ(B. franklini)の減少に初めて気づいた人物だ。今回の研究には関与していないが、間もなくキャメロン氏と共同でさらに多くの標本を研究する。「ノセマ・ボンビの移入時期の前後で痕跡を探すのが目的だ」。

 キャメロン氏のチームでマルハナバチのDNAを調べたところ、減少している種は遺伝的多様性に乏しいこともわかった。個体群が孤立、寸断されている場合によく見られる特徴で、結果として近親交配が増える。「しかし4種は移動範囲が広く、孤立もしていないのに、遺伝的多様性が乏しくなっている。理由は不明だ」とキャメロン氏は言う。

 マルハナバチはミツバチよりも受粉媒介の効率がはるかに良いため、減少の原因究明は農家にとって切実な問題だ。大型のマルハナバチは羽音の周波数が高く、花粉の振動受粉・集粉に適しているためだという。「トマト畑にミツバチの群れを大量に放つこともできるが、効率性では遠く及ばない。多くの作物が大型マルハナバチに依存している」とキャメロン氏は心配する。

 今回の研究は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌1月4日号に掲載されている。

Photograph by Bill Beatty, Visuals Unlimited

文=Rachel Kaufman

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