最新記事

ヘルス

肥満と脳の萎縮に相関関係があった──認知症対策に使えるかも?

Belly Fat Linked to a Smaller Brain

2019年1月10日(木)16時00分
カシュミラ・ガンダー

腹周りのサイズは認知症ともつながっていそうだ tomzilaze/iStock

<BMIとウエスト・ヒップ比(WHR)が認知症のリスクを察知するのに役立つかもしれない>

お腹まわりの余分な脂肪と脳の萎縮に相関関係があることが明らかになった。では、肥満度を減らすことは認知症予防につながるのだろうか。ニューロロジー誌で1月9日に発表した論文で、英ラフバラ大学のマーク・ハマー教授がこの疑問と取り組んだ。

脳の萎縮が記憶力の低下やアルツハイマーをはじめとする認知症のリスク増大につながることは、過去の研究から知られているが、お腹まわりの脂肪と脳のサイズの関係についてはわかっていなかった。

肥満度が脳の大きさに影響を及ぼすかどうかを調べるため、研究チームは9,652人分のデータを解析。調査参加者の年齢は40~69歳で、平均年齢は55歳。参加者のほぼ5人に1人が肥満と分類された。

肥満度は、身長と体重から算出するBMI(ボディー・マス・インデックス)とウエスト・ヒップ比(WHR)の両方を基準にした。BMIは体脂肪率が高いかどうかの目安。WHRはウエスト(cm)÷ヒップ(cm)で算出し、数値が高いほどお腹が出ていることになる。アメリカではBMIは30以上、WHRは男性が0.9以上、女性で0.85以上が「肥満」だ。

脳の灰白質の容積が減少

研究チームはMRI(磁気共鳴映像法)で参加者の脳をスキャンし、脳の表面に近く神経細胞が密集する「灰白質」と神経細胞同士をつなぐ「白質」を含む脳のMRI画像を解析した。

その結果、BMIとウエスト・ヒップ比の両方が最も高いグループは灰白質の容積が最も小さく、平均で786立方センチメートルだった。対照的に、BMIは高いがWHRは高くないグループは平均で793立方セン、BMIで適正体重だったグループは平均で798立方センチだった。白質の容積は体重に左右されなかった。

「肥満、特にお腹まわりの肥満と脳の萎縮に相関関係がある可能性がある」とハマーは言う。「今回の研究で、肥満と脳の特定領域の萎縮に相関関係があることが分かった。今後さらなる研究が必要だが、将来的にはBMIとWHRを測定することが脳の健康診断に役立つかもしれない」

だが、今回の研究で肥満と脳の萎縮の因果関係が証明されたわけではない、とハマーは釘を刺す。たとえば、調査参加者は参加しなかった人たちより健康的な傾向にあった。「お腹まわりの肥満が灰白質の容積減少とつながっていることは分かったが、脳構造の異常が肥満を引き起こしたのか、その逆なのかは分からない」

(翻訳:河原里香)

※2019年1月15日号(1月8日発売)は「世界経済2019:2つの危機」特集。「米中対立」「欧州問題」という2大リスクの深刻度は? 「独り勝ち」アメリカの株価乱降下が意味するものは? 急激な潮目の変化で不安感が広がる世界経済を多角的に分析する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀には追加策の余地、弱い信用需要に対処必要

ビジネス

訂正(17日配信記事)-日本株、なお魅力的な投資対

ワールド

G7外相会議、ウクライナ問題協議へ ボレル氏「EU

ワールド

名門ケネディ家の多数がバイデン氏支持表明へ、無所属
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 7

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中