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産業用ロボットの付加価値がシフト、“止まらない工場”の手足に

産業用ロボットの付加価値がシフト、“止まらない工場”の手足に

URの協働ロボによるワークの交換

産業用ロボットの付加価値がタクトタイム短縮などの“作業効率”から、工作機械を止めないといった工場の“稼働維持”にシフトしつつある。深刻な人手不足を背景に、新しい工作機械を導入するよりも既存の機械を動かす自動化投資が増えている。自動化の実現には人が担ってきた工程間や機械間をつなぐ細かな作業をロボット化する必要がある。ランダムピッキングからの精密組み付けや産ロボと工作機械との連携が求められる。システムエンジニアリングの価値も増している。(取材=小寺貴之)

既存機械を自動化 ランダムピッキングから精密組み付け

「産ロボ自体の製造コストの削減はもう限界。スピードを上げてタクトタイムを短くし、パフォーマンスとして価値を示していく必要がある」と東京大学の石川正俊教授は強調する。溶接やマテリアル・ハンドリングなど成熟した用途ではタクトタイムを少しでも短縮し、作業効率を上げる努力が続けられてきた。ただ人手不足の深刻化が産ロボの需要動向を変えつつある。

ファナックの稲葉清典取締役専務執行役員は「人手不足を受けて事業継続のための自動化(のニーズ)が出てきている」と説明する。新しい機械よりも、いまある機械を有効に動かすための自動化が増えた。

この恩恵をまず受けたのが協働ロボだ。工作機械へのワーク投入と回収をロボットに置き換える場合に、作業者をロボットの稼働空間から排除できない。安全面から協働ロボが採用されている。デンマーク・ユニバーサルロボット(UR)のユルゲン・フォン・ホーレン社長は「工作機械メーカーへのOEM(相手先ブランド)供給をターゲットにしている。協働ロボのパイオニアとしてメリットを提供できる」と自信を見せる。

ワークを持ったロボットが5軸加工機とバリ取りステーションを行き来する(DMG森精機)

工作機械へのワーク投入・回収は作業効率よりも柔軟性が求められる用途だ。ワークの認識や把持、位置決めなどの時間のかかる動作も、工作機械がワークを削る加工時間に間に合えばいい。工作機械ユーザーとしては高価な装置ほど24時間稼働で早く確実に減価償却したいと考えるため、自動化の候補には軸数の多い5軸加工機がまず挙がりやすい。加工時間が長い分、協働ロボにも余裕が生まれる。

DMG森精機は汎用性を広げるために協働ロボを無人搬送車(AGV)に積み、工作機械や部品棚を往来するモバイルマニピュレーターを提案する。加工を待つ間など、空いた時間にはバリ取りや洗浄をする単機能ユニットを開発した。このユニットは足元に無線給電機能があり、バリ取りをしながらAGVに充電できる。24時間稼働が可能になり、モバイルマニピュレーターの保有台数を抑えられる。

幅広いワークに対応 競争力磨く

工作機械やユニット、ロボットをつなぐのは小さな赤いキューブだ。加工ステージやユニットに設置され、ロボットは手元のセンサーでキューブを測り、3次元の空間座標を取得する。2次元コードを読む方式もあるが、金属製キューブは切削油で変色せず、変形もしない。中川昌昭上席研究員は「土日の2日間も止めない連続稼働を実現する」と力を込める。2020年末の発売を目指す。

5軸加工機など高機能な装置は、ワークの芯だしを加工機のタッチセンサーで行うなど、装置側でロボットの機能を補えている。ただ、そうではない加工機を相手にするとロボット側に求められる機能が増える。カギとなるのがランダムピッキングからの精密組み付けだ。バラ積みやパレットに並んだワークをつかみ、治具などを介して高い位置精度で組み付ける。MUJIN(東京都江東区)のデアンコウ・ロセン最高技術責任者(CTO)は「バラ積みピッキングの次は直接組み付け。みな狙っている」と指摘する。

工作機械へのワーク供給はローダーが担ってきた。そこでバラ積みかごからローダーにロボットが投入するシステムを販売する。産ロボやビジョンセンサーなどを組み合わせてシステムをパッケージ化した。ローダーの隣に据え付け、作業者は山盛りのワークを持ってくれば、搬送かごからロボットが機械に投入し続ける。

MUJINの加工機ワーク投入ロボット

現在はローダーを経由するが、将来は直接組み付けを狙う。ロセンCTOは「装置が減るとシステム構築のコストを抑えられる。段取り替えも楽になる」と説明する。ローダーよりも幅広いワークに対応しコスト競争力の高いロボットを目指す。

共同でシステム開発 24時間365日稼働を追求

ヒロテック(広島市佐伯区)はシグマ(広島県呉市)などと自動車部品の組み付け技術を開発した。ワークには直径6ミリメートルのピンを2本設け、ロボットではめ込んで位置精度を担保する。2点で固定するとワークの位置と向きが決まる。安価なビジョンセンサーで実現するため、ワークの位置姿勢認識アルゴリズムを開発した。

ヒロテックなどはマツダのサプライヤーなど25社が参画する「ひろしま生産技術の会」として工場を24時間365日、無人で稼働させる技術を研究してきた。この組み付け技術は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の開発助成事業に採択されて実用化、19年末に生産ラインに導入された。ヒロテック生産技術研究所冨永誠副所長は「乱雑に積まれたワークを拾って正確にはめる。この技術は工作機械への投入や組み立てなど幅広く応用できる」と説明する。

モノづくりの現場で自動化の余地は大きく残されている(イメージ)

現在はローダーや治具を介する方式が安価だが、多品種対応や段取り替えの負担低減を見据えて、ビジョンセンサーや工作機械の機能を駆使した組み付けシステムが開発されている。シンプルな機構で解決できるとより安価になる。組み付けの先には組み立てがある。

人手不足への対応で製造現場の自動化がさらに進めば、ロボットにも待機時間などの余裕が生まれる。それがロボットの新たな用途開発や技術進化を促すことになる。

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日刊工業新聞2020年2月6日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
深刻な人手不足でロボットには時間的余裕が生まれ、高度なシステムが使えるようになりました。バラ積みから組み付けができるようになると、その先にはランダムピックからの組み立てがあります。現在のロボット組み立ては治具や機構の周辺装置が多く、数がないとペイしませんでした。ここから一品一様の精密組み立てに飛ぶのは難しいですが、ワーク投入・回収の用途がちょうど良い中継地になりえます。すでにある工作機械を稼働させるために、後から自動化するのはスマートではありません。技術開発が進むなら、悪くもないかと思います。

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