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村山由佳 恋愛したい気持ちは、年を重ね強まっている

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日経ARIA

爽やかな青春小説から深い官能を描いた作品まで、数多くの恋愛を描いてきた直木賞作家・村山由佳さん。中でも、転機作として賛否両論を巻き起こした『ダブル・ファンタジー』と、去年刊行された続編の『ミルク・アンド・ハニー』では、主人公の脚本家・奈津が心の向くままに男性と肌を重ねていく。

リアルで刺激的な性描写や人物設定に、どこまでが実話でどこからがフィクションなのかとつい勘ぐってしまうが、「自分で経験したことのない感情は書けない」と村山さんは話す。50代になっても恋愛したい気持ちは変わらず、むしろ強くなっているという。「恋をやめようと思ったことはないんですか?」という質問に、ふんわりとほほ笑みながら、柔らかな口調で答えた。

キャリアを築いても、恋愛でしか承認欲求が満たされず

現在54歳。2度の離婚を経て今、新たなパートナーと暮らしている。

「ずっと恋はしていましたね。全く褒められたことではないのですが、いつも新しく好きな人ができたことを機に、前の人と別れてきました。人を好きになるときは頭で考えたりしないし、好きになったら飛び込んでみようという性格。それは今更変えられないから、仕方ないかなって」

「恋愛をもうやめたいということはあったと思うんです。けれど、ずっと自己肯定ができなかった自分にとって、恋愛は承認欲求を満たすもの。恋愛への依存がありました」

29歳で小説すばる新人賞を取り、38歳のとき『星々の舟』で直木賞を受賞。25年にわたり順調なキャリアを築きながらも、仕事で承認欲求が満たされることはなかったという。

賞をもらえばホッとするけど、すぐにまた不安になる

「はたから見たら、どうしてそんなに自信がないの? と思われるかもしれないけれど、それが私の一番の問題だったんですね。賞をもらうとその時はホッとするのに、充足せず、また不安になっていました」

「恋愛でもそう。私を弱いものとして檻(おり)を作って囲うことで、自分が優位に立とうとする男性が多かったので、私はますます自信をなくす。付き合った始めのころはそういう男性じゃなくても、関係が続いていくうちに私の何かがそうさせてしまうんでしょうね。最近、『男尊女子』(自分から男尊女卑的な行動を取ってしまう女性)という言葉を聞きましたが、まさにそれだ!って」

軽井沢で3年前から一緒に暮らす今のパートナーは、今までの恋愛スタイルが初めて当てはまらない相手だという。『ミルク・アンド・ハニー』で、主人公の奈津はいとこの武と恋に落ちるが、村山さんの現在のパートナーこそ、5歳年下のいとこと打ち明ける。

ひょろひょろの男子が、むくつけき男になりグッときた

「彼はリアル武なんです(笑)。小さい頃から知っていましたが、交流もなくたまに噂を聞くくらいで、久しぶりに会ったときが25年ぶり。ひょろひょろの男の子だったのが、たくましく、40代のむくつけき男になっていて驚きました。グッときてしまったとは言え、さすがにいとこだからとブレーキは踏んだんですけどね」

自伝的小説『放蕩記』に書かれているように、母親との仲がずっとうまくいかず、身内に苦しめられていた村山さんを救ってくれたのも彼だった。「身内というものが重くて仕方なかったのに、なぜここにきて、いとこという身内に救われているのだろうと不思議な感覚でした」

「彼にとっては私の母を叔母として知っているので『あのおばちゃんやったら、つらいのも無理ないわ』と、説明しなくても理解してくれる。その上で、『もうぼけてはるんやから、なんとか大事にしたろうや』と一緒に施設に行ってくれます。最愛の父と18年連れ添った猫を続けて亡くした時もそばにいてくれた。身内なんてちょっとずるい球のような気もするけれど、一緒にいてすごく楽なんです」

満たされることが怖かった。でも真っ当に幸せになりたい

「初めて何かに飢えずに済んでいる」という今の恋愛は、執筆にどのように影響しているのでしょうか?

「飢えを満たすために書いて書いて書いて、恋愛して……とずっとやってきたので、飢えがなくなって満たされることが最初は怖かったんです。作家って不幸なほうがいいものを書くといわれたりもする。でも、不幸なままでいたらエネルギーも切れちゃうし、本当は真っ当に幸せになりたいですから」

「今は満ち足りていて、いい感じで肩の力が抜けているから、安心して目の前のものに集中できている感覚があります。それが年齢のせいなのかパートナーのおかげなのか、今までの経験が実を結んでいるのか、その全部なのかは分からないですけどね。しばらくは私生活を切り売りせずに、何か違うところで書こうかなと思っていますね」

村山由佳
作家。1964年東京都生まれ。立教大学文学部卒。会社勤務などを経て、93年『天使の卵―エンジェルス・エッグ』で第6回小説すばる新人賞を受賞。 2003年『星々の舟』で第129回直木賞を受賞。09年『ダブル・ファンタジー』で第22回柴田錬三郎賞、第4回中央公論文芸賞、第16回島清恋愛文学賞を受賞

(取材・文 宇野安紀子、村山由佳さん写真 品田裕美、イメージ写真 鈴木愛子)

[日経ARIA2019年2月20日付の掲載記事を基に再構成]

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