logo

高千穂夜神楽に酔う 800年の伝統…勇壮、優美、笑い

 五穀豊穣(ほうじょう)を神に感謝する夜神楽が、宮崎県でシーズン真っ盛りだ。「天孫降臨」の地との伝承がある高千穂町では、11月から翌年2月にかけて「高千穂の夜神楽」(国重要無形民俗文化財)が奉納される。記者も徹夜で夜神楽を見物し、神話の世界に酔いしれた。

 11月中旬。雲海の絶景スポット、国見ケ丘(標高513メートル)のふもとにある押方五ケ村地区。氏神を祭る中畑神社で神迎えの神事を終えた夕刻。剣や弓などを手にした「ほしゃどん(奉仕者)」と呼ばれる舞い手や奏者たち約20人が、笛や太鼓のはやしに合わせて勇壮に舞いながら「神楽宿」と呼ばれる夜神楽会場の地元集会所に到着した。

 夜神楽は集落の主婦たちによる煮しめなどの直会(なおらい)料理がふるまわれた後、午後7時前に始まった。前半は神々を招く舞が続く。

 地元で「面様(おもてさま)」と呼ばれる面をつけた鬼神が現れ、神楽歌を唱えた。「うれしさに 我はここにて舞い遊ぶ」。まるで呪文のようだ。同地区に神楽歌約50首が伝わっているという。

     □  □

 平安末期から約800年の歴史があるとされる高千穂の夜神楽のほしゃどんは男性のみ。同地区では農家や会社員が務め、その多くが消防団員だ。

 子どももいて、小学生と高校生各1人、中学生5人が出演する。短い舞で20~30分、長い舞では1時間も舞い続けながら歌う。

 この日、息ぴったりの舞を披露したのは、ともに高千穂中1年で野球部員の富高龍星さん(13)と龍輝さん(同)の双子の兄弟。小学4年から神楽を始めた。「ずっと神楽を残したい」と口をそろえる。一方、昨年から神楽を始めた父の浩二さん(42)は「足や手、顔の向きなど動きが細かく、難しい。息子たちに教えてもらうこともあります」と苦笑した。中畑神社の戸高八徳宮司(62)は「年配の人の舞には味があり、若い人には勢いや新鮮味がある」とうなずいた。

 4集落に約60世帯が住む同地区は「限界集落」に近づいている。中畑神社神楽保存会の藤崎康隆会長(66)は「過疎化や高齢化で町内には後継者不足の神楽団体も出てきた」と伝統継承への危機感を訴える。氏子も減少しており、準備や片付け、費用面など一人一人の負担が年々大きくなっている。

     □  □

 日付が変わる頃、うとうとする見物客があちらこちらに見えた。午前2時ごろ、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)と伊邪那美命(いざなみのみこと)の夫婦二神がザルを揺らして酒を酌み交わす「御神体」の舞が始まり、酔った夫婦二神が、客席に飛び込んで見物客に抱きつくと、笑いの渦に包まれた。「目覚まし神楽」とも呼ばれるこの舞には、夫婦円満の願いが込められている。

 明け方、岩戸開きの神話にちなんだ舞が続き、最大の見せ場を迎えた。天照大御神( あまてらすおおみかみ )が隠れた天岩戸( あまのいわと )の前で、天鈿女命(あめのうずめのみこと)が踊りを披露。真っ赤な神面をつけた手力雄神( たぢからおのかみ )が岩戸を取り払った。神話と同じく神楽宿に朝日が差し込んだ。

 同8時前、演目「雲降ろし」でフィナーレ。天上界の高天原を象徴する座敷天井の「雲」と呼ばれる天蓋(てんがい)を下ろす舞で、紙吹雪が舞い散った。眠気と凍えるような寒さと戦いながら夜通し見学した私も充実感に浸った。

     □  □

 「九州の神楽は、場所場所によって伝承や舞の内容が違い、それぞれに良さがあります」。こう語るのは高千穂町の歴史民俗資料館の緒方俊輔学芸員(56)。「神楽は神事。見せ物ではない。見物客は一夜限りの氏子として、集落のしきたりを守りながら楽しんでほしい」と語る。

 夜神楽は入場無料だが、「初穂料」として1人あたり2千~5千円か、地元の焼酎2~3本を持参するのが習わし。直会料理やかっぽ酒を振る舞う地区もある。写真やビデオを撮るのは自由だが、三脚やストロボ禁止の集落が多い。氷点下まで気温が下がることがあり、厚着や膝掛けなど防寒対策は万全に。 (古川剛光)

 ▼宮崎県の主な夜神楽 「高千穂の夜神楽」は週末を中心に2月8日まで開催中。ほかには「椎葉神楽」(椎葉村)=今月21~22日に夕神楽を含めて村内4集落▽「諸塚神楽」(諸塚村)=来年1月下旬~2月中旬、村内3カ所▽「西米良神楽」(西米良村)=今月21~22日、村所公民館ーでそれぞれ開かれる。このうち高千穂の夜神楽の問い合わせ先は高千穂町観光協会=0982(73)1213。

sponsored by 求人ボックス
西日本新聞me

福岡ニュースランキングを
メールで受け取る(無料)

「みんな何を読んでるの?」毎日17時に
ニュースTOP10をお届け。 利用規約を確認

宮崎県の天気予報

西日本新聞me

福岡ニュースランキングを
メールで受け取る(無料)

「みんな何を読んでるの?」毎日17時に
ニュースTOP10をお届け。 利用規約を確認

PR

宮崎のアクセスランキング

PR