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たとえ遠回りでも…障害者差別なくすには 当事者の「叫び」

連載:バリアフリーの現在地(7)

 障害者差別解消法施行から今年で丸4年。連載では、バリアフリーを進めようと模索するさまざまな現場を見つめてきたが、なお道半ばだ。最終回ではあらためて、障害のある当事者の話に耳を傾けたい。

 昨年12月、福岡市・天神の市役所西側広場。「市障がい者差別解消条例」を啓発するイベントで、さまざまな当事者がマイクを握り、思いを訴えた。車いすに乗ってトリを務めたのは、市障害者関係団体協議会理事長の中原義隆さん(78)。「声を掛けて触れ合ってこそ、理解し合おうという『心』が生まれてくるのだと思います」

 ●よろいではなくて

 中原さんは、昨年1月に施行された同条例を「つくる会」の代表も務めた。同会が発足し、市に働き掛けて制定・施行されるまで、実に5年数カ月を費やした。

 何が差別に当たるのか、どんな条例なら実効性があるのか。40を超す団体が集まり、学習会を毎月重ねるなかで、中原さん自身が痛感したのは、それぞれの障害によって「目線も考え方も価値観も違う」こと。「足に障害がある自分でも、外見から分かりにくい障害のある人の心の機微には気づけなかった」と振り返る。周りが理解してくれないためにものを言わなくなり「逆に迷惑になるから、とさまざまな社会の障壁を諦める人もいる」。互いの対話を自然に促すルールのあり方を、丁寧に時間をかけて協議していった。

 「差別禁止を明確にうたう厳しい内容にすべきだ」という声もあったものの、「厳しすぎて、障害者が『よろい』として使うようなものと捉えられれば、誰も耳を傾けてくれない」。法律を踏襲し、建設的な対話により合理的配慮の「好事例」を積み上げ、社会に広く啓発することを目的にした内容に落ち着いた。

 中原さんは「ルールや事例を『物差し』として、お互いに構えることなく、声を掛け合う雰囲気づくりが一番大事」と信じる。

 ●感謝をはっきりと

 目が不自由な鍼灸(しんきゅう)師の浜田庄司さん(59)=同市南区=は昨年、福岡県が合理的配慮のあり方を考えてもらおうと、同市や北九州市で主催した企業関係者向けの研修に参加した。

 天神では健常者の肩に手を添えて街歩き。一緒にコーヒー店に入って「見えないなりの暮らしの工夫」などについて、ざっくばらんに話を楽しんだ。

 幼いときから弱視で、完全に視力をなくしたのは22歳のころ。当初は白杖を持つことも「自分が障害者だと認めるようで」嫌だった。電車で席を譲られても素直に受け取れなかった。

 ただ年を重ね、視覚障害のある仲間以外の人々との付き合いに参加するようになると、肩の力が抜けていったという。「障害者だから純粋とか心がきれいと誇張される風潮があるけど、われわれだって、気分もあるし悪い心もある。皆さんとおんなじなんですよ」。そんな話もすると、相手も身構えなくなっていく。

 先日、行き先が異なる複数のバス停がある場所で、やや戸惑っていたときのこと。運転手がわざわざ降りてきて「どこに行かれますか」と尋ね、案内してくれた。降車時、浜田さんは「本当に助かりました」と丁寧に感謝を伝えた。

 昔は「すいません」で終わらせていた。最近は「ありがとうとストレートに口に出す」ことにしている。

 「そうすれば、運転手さんがまた、ほかの障害者にも声を掛けようと意欲が湧くのかな、と考えて…」

 ●たとえ遠回りでも

 浜田さんは、白杖への抵抗感が消えたわけではない。街で「もう少し配慮があってもいいのに」と思うこともある。

 「でも強く言えば相手も不快になるし、自分もエネルギーを使う。障害がなくても、誰でもつらくて泣きたいときもあるでしょう。障害があるなしに関わらず、お互いが楽に、穏やかに、幸せになれれば、それに越したことはないです」

 ルールを盾に「差別をなくして」と拳を振り上げても、周りの理解に限界はある。たとえ遠回りになっても、まずは「誰もが、同じ楽しみや悩みを持つ人間である」と自然に、素直に分かってもらえたら-。

 懸命に自ら心を開こうとしている、こうした当事者たちも少なくない。その「叫び」に、社会は応えていくべきだ。 (編集委員・三宅大介)

 =おわり

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 【ワードBOX】障害者差別解消条例

 障害者差別解消法の実効性を確保するため、地方自治体が実情に応じ、理念や役割、相談体制などを定める。内閣府によると2018年4月現在、「制定済み」「制定に向けて作業中」「今後作業予定」は36都道府県(全体の77%)、10政令市(同50%)-など。同法に先駆けて制定した県市もあるほか、民間事業者にも一律、合理的配慮を義務付けている自治体もある。

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