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離婚後の共同親権、是非は 募る「会いたい」…法制化望む声

 離婚後も父母の両方が子どもの親権を持つ「共同親権」制度を巡る議論が本格化している。日本では離婚後は父母のどちらかを親権者とする「単独親権」を採用する中、親権を持たない親たちが「子育てに関われない」と共同親権の実現を求める一方で、ひとり親や識者からは慎重な声も聞かれる。国も制度の在り方について検討を始めた。

 「離婚で子どもたちと会えなくなるなんて考えもしなかった」。12日、東京地裁の法廷で柳原賢さん(57)=富山県=は訴えた。柳原さんら男女12人は、民法の単独親権制度は、子育てする権利を侵害し、幸福追求権などを定めた憲法に違反しているとして、昨年11月、国に損害賠償を求める訴訟を起こした。

 妻と離婚し、当時小学生と園児の娘2人と離れて暮らし12年。調停で年3回の面会交流が決まったものの、守られたことはない。遠くから見るだけでも、と子どもの学校の学習発表会に足を運んだ時は、元妻と教師にすぐ追い出された。

 柳原さんは「同じように苦しむ人はたくさんいる。離婚は夫婦の別れであって、親子の別れではない」と制度の不備を訴える。一方、国側は答弁書で原告の子育て機会が阻まれているのは「(同居する)親の意向によるものと思われ、国に賠償請求する根拠が不明」と反論している。

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 本紙の「あなたの特命取材班」にも、共同親権を求める親たちから声が届いている。妻と別居中の大分県の男性(35)は2年前、仕事を終えて帰宅すると、家具と共に妻と子ども2人が消えていた。

 自身の預金口座から多額を引き出され、妻の不貞行為も判明。調停で子の引き渡しや、監護者の指定を求めたが認められず、月に1回の面会交流だけが心の支えだ。「子の養育環境が変わるのは良くないと、同居親に親権が認められる場合が多い。子を連れ去った方が勝つという状況を国が追認するのはおかしい」。男性は2月26日、「連れ去り」の規制を求めて、同じ状況の親13人と東京地裁に国家賠償を求め提訴した。

 日本も加盟する「ハーグ条約」は、片方の親が16歳未満の子を国外に連れ去った場合、もう一方の親の求めに応じて原則、元の居住国へ引き渡さなければならない。ただ、国内の連れ去りは対象外だ。原告側は、子を育てる権利を侵害され、子の人権も侵害していると訴えている。

 原告代理人の作花知志弁護士は「共同親権を採用する欧米では、連れ去りにペナルティーが課され、親権争いで不利になる。国内法を整備してこなかった国の責任を問いたい」と話す。

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 民法は、離婚時に親子の面会交流を取り決めると定めるが、強制力はない。厚生労働省の2016年度調査では、別居する親と定期的に面会しているのは母子家庭で29・8%、父子家庭で45・5%に過ぎない。

 共働き世帯が増え、男性の育児参加が進む中、離婚後も子育てに関わりたいと望む親は増えている。離婚件数は減少しているのに対し、監護者指定や面会交流、子の引き渡しを求める調停・審判は、いずれもこの10年間で倍増している。

 海外では欧米を中心に、離婚後も共同で養育する国が主流だ。早稲田大の棚村政行教授(家族法)によると、米カリフォルニア州が1979年に「共同監護」を導入し、全米に拡大。90年代からは「子どもの権利」として父母双方と関わり続けることを尊重する風潮が世界的に広まった。

 昨年2月には国連の「子どもの権利委員会」が離婚後の共同養育を認めるよう日本に勧告。法務省は11月に有識者による研究会を立ち上げ、共同親権の是非や法制度の議論を始めた。

 棚村教授は「離婚後も両親が共同で責任を持つという考え方は大切」としつつも、共同親権の導入は慎重にすべきだと主張する。裁判所が全ての離婚に関わり、DVや児童虐待への対策も講じている欧米と異なり、紙一枚で協議離婚できる日本では対策が不十分と考えるからだ。「親ではなく子の権利を最優先と法律に明記し、離婚後の養育計画に公的機関が介入する仕組みを整えるなど、まずは相談、支援体制を充実させる必要がある」と話している。 (新西ましほ)

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