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入社してすぐに妊娠した社員は「ズルイ」のか?

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新入社員の皆さん、お元気ですか?

潜水艦で海を行く自衛官・山内尚美が抱くドルフィンマークの誇り

先日、ある企業の新入社員150人の前で講演をしてきました。全国から集まった、期待と不安でいっぱいの新入社員の皆さんのなんと初々しいこと。

この日、お話ししたのは「自律的ライフキャリア」についてでした。新入社員の皆さんが社会人として生き抜くことになる「令和」の時代には、あらかじめ5年、10年ごとの目標を設定し、その目標に向かって上に登っていく「階段型キャリア」ではなく、「サーフィン型キャリア」が求められます。まるでサーフボードを波間で自在に操るように、次々に変化する状況を前向きに乗りこなすことです。なぜかといえば、このデジタルの時代、あまりに社会の変化が速いので、誰も未来を予測できないからです。

写真はイメージです
写真はイメージです

サーフィン型キャリアは「会社の言うなり」ではなく、自分の頭で考え、進んでいくことが重要。これを「自律的ライフキャリアデザイン」とも呼んでいます。この「自律的ライフキャリア」をデザインしていくことが、これからの時代には必要です。

自律的ライフキャリアは、キャリア(仕事)だけでなく、ライフ(人生)も一緒に考えていきます。仕事が人生のすべてではないですよね? 今の会社に長くいたいと思っても、「あれ、転勤のある男性を好きになっちゃった」なんて、「あるある」です。自分が転勤する可能性もあるし、あるいは思わぬ「授かり婚」もあるかもしれません。

一説によると、人のキャリアの8割は偶発的なことで決まるそうです。だから、完璧なキャリアプランなんて存在しないのです。本当に世の中、思いもよらぬことが起きるものなのですから。

「仕事も全然覚えてないのに…」とモヤモヤ

例えば、掲示板サイト「発言小町」には「新入社員が妊娠してモヤモヤする」という内容の投稿がありました。

トピ主さん(勤続二十数年、既婚、子供なし)の勤務する会社で、アルバイトから正社員に採用された女性が、入社からわずか半年で妊娠したそうです。トピ主さんの会社は、最長で子供が3歳になるまで育児休暇を取得でき、育休中の手当も手厚いといい、トピ主さんはこの新入社員に対して「子供産みたいから正社員になったんじゃないの?」「まだ仕事も全然覚えてないのに権利だけもらうんだ」などと、嫌みなことを考えてしまうのだそうです。

これに対して、「お気持ち、わかります」と、トピ主に共感するレスがたくさん付きました。「以前の職場でも新入社員で妊娠したのが4人いました」「中途採用の新入社員が入社数ヶ月で妊娠した際は、当時未婚の私でさえトピ主さんと同じ心情になりましたよ。そして、多くの社員が同じように思っていました」などと、トピ主さんと似たようなエピソードも寄せられています。

ある投稿者は、トピ主さんの心理について、「あなたのモヤモヤをわかりやすく言えば、『ズルイ』ということです。妊娠した新入社員を『ズルイ』と思う気持ちがどうしてもぬぐえない」のだと指摘しています。さらに、「一方で(トピ主さんには)彼女が得ている権利は必要なものだという理性もある。結局、制度があっても運用する人間の意識の中に『ズルイ』という気持ちがあるうちは、制度は十分に機能しないのです」とつづっています。

私は育休を我慢したのに……私は子供を産まなかったのに……ズルイ! そう言いたい気持ちはよくわかります。でも、周りから「ズルイ」と言われないように、みんなで我慢比べをするような社会のままでいいのでしょうか? そんな社会はそろそろ限界ではないかと、私は思うのです。

一方で、このトピには次のような意見も寄せられています。「そもそも正社員じゃないと子供を産めないのでしょうか? アルバイト(だった女性)が安定した職と生活を得て、安心して子育てをしたいと考えてはいけないのでしょうか?」「もやもやしないで寛大に受け入れられるような制度や風潮が日本にあればいいのになと思います」「少子高齢社会で(妊娠は)せっかく喜ばしいことなのに、周りの人が素直に受け入れられないって、本人も周囲もお互いに辛い気がします」

男性社員の育休取得推進を

本当に、女性同士の争いやモヤモヤ感は全部、平成の時代に置いていきたい! 心からそう思います。会社が定めた制度なのに、それを使ったら他の社員に「ズルイ」と言われてしまうような、誰も幸せにならない企業社会の風潮は、平成の時代で終わりにしたいのです。

使われたら困る「制度」があるとしたら、それはそんな制度を作った企業側が悪いのです。また、企業が「女性だけを働きやすくする制度」を設けていると、結局、家事・育児はすべて女性にのしかかり、仕事との両立に苦しむことになります。

子どもは女性だけで育てるものでしょうか? もし、夫が半分子育てをしてくれたら、妻は何年も育休を取ったり時短を取ったりしなくても済むはずです。今、働き方改革のネクストトレンドとして、多くの企業が競うように「男性社員の育休100%取得」に向けて取り組んでいます。私も、「うちの会社の女性をどうしたら活躍させられるだろうか?」という相談をもらったら、「まずは自社の男性社員に育休を取らせてください。それから、女性の夫が勤めている会社の経営者に会って、『あなたの会社も男性に育休を取らせてほしい』と説得してください」とアドバイスします。

私が2大学(女子大と共学)で女子学生にアンケート調査をしたところ、キャリアを頑張りたい人ほど「早く子供を産みたい」と答える傾向が見られました。さらに声を聞いていくと、今時は男子学生も、「ライフ」「キャリア」の両方とも大事だと考え、「パートナーが妊娠・出産したら、育休を取りたい」という人が多いのです。

ということで、企業経営者の皆さん、先輩社員の皆さん、今年の新入社員でいきなり妊娠する人がいても、驚かないでくださいね。時代は変わりました。モヤモヤはあったとしても、時代は元には戻りません。

人生100年時代。時には笑い、時には泣き、時には怒りながらも、助け合い、支え合って、子育てをしたり、介護をしたり――。そんなふうにライフキャリアを築いていけたらいいですね。

◇発言小町のトピはこちら↓
「新入社員の妊娠」

プロフィル
白河 桃子( しらかわ・とうこ
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大学客員教授、昭和女子大学総合教育センター客員教授、東京大学大学院情報学環客員研究員。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員、内閣官房 第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」有識者委員、内閣府男女局「男女共同参画会議専門調査会」専門委員などを務める。東京生まれ、慶応義塾大学卒。住友商事などを経て執筆活動に入る。。2008年、中央大学教授の山田昌弘氏と『「婚活」時代』を上梓、婚活ブームの火付け役に。少子化、働き方改革、女性活躍、ワークライフバランス、ダイバーシティなどをテーマとする。著書に『ハラスメントの境界線 セクハラ・パワハラに戸惑う男たち』(中公新書ラクレ)、『御社の働き方改革、ここが間違ってます! 残業削減で伸びるすごい会社』(PHP新書)、『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(是枝俊吾氏と共著、毎日新聞出版)などがある。https://www.facebook.com/shirakawa.toko

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4039996 0 大手小町 2019/04/25 09:31:00 2023/04/26 17:49:51 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/04/20230426-OYT8I50077-T.jpg?type=thumbnail

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