Feb 06, 2020 interview

永瀬正敏が『ファンシー』で感じた監督の想いと共演者の"底力"、映画人・写真家として続く挑戦

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『レッド』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した山本直樹の短編漫画『ファンシー』が永瀬正敏を主演に迎え映画化された。郵便配達員と詩人、詩人のファンの女性を巡る奇妙な三角関係を描いた本作で、永瀬は郵便配達員であり彫師の鷹巣明を演じている。ドラマ『私立探偵 濱マイク』(02年)でメイキング撮影を務めていた廣田正興監督のオファーを快諾したという永瀬に、撮影秘話や影響を受けた祖父との思い出、今後挑戦したいことなどを聞いた。

監督との出会い、映画オリジナルの設定

──廣田正興監督は永瀬さんが主演を務めていたドラマ『私立探偵 濱マイク』のメイキング撮影を務められていましたよね。

その前にじつは出会っているんです。『シド・アンド・ナンシー』(86年)で有名なアレックス・コックス監督が『スリー・ビジネスメン』(97年)を日本で撮った時に、廣田監督が助監督を務めてらっしゃって、それが初対面でした。その映画には(本作にも出演する)田口トモロヲさんも出演していて、廣田さんがメイキング撮影を担当した『私立探偵 濱マイク』の11話もアレックス・コックス監督が撮っています。最初に会った時から廣田監督は「いつか映画を撮りたい」と話していましたね。

──本作は廣田監督の長編デビュー作となりますが、どのような経緯で出演が決まったのでしょうか?

十数年前に廣田監督から「自分が長編商業映画デビューする時はこの作品を映画化したい」と原作を読ませてもらったことがあったんです。そして「その時はぜひ出演してください」とも。かなりの時が経って正式にオファーしていただいたので再度読んでみたら、原作では“ペンギン”が登場するけど、映画ではアニメーションになるのか、それとも着ぐるみを着た人間が演じるのか、そこがすごく気になったんですよね(笑)。そしたらペンギンは擬人化するということで、窪田正孝くんがペンギン役を演じることになって。そこが原作から変わっているのと、僕が演じる鷹巣が彫師であることと裏社会の人間が登場するというのは、映画版のオリジナル設定なので、思い切ったことをやるなと思いました(笑)。

──十数年もの間、この作品の映画化を思い続けた廣田監督の熱量は作品からも伝わってきました。

その間にきっと「この作品で長編映画の監督デビューしませんか?」と声がかかったり、いろいろ誘惑もあったと思います。それでも自分が最初に撮りたいと思った作品を初志貫徹したというのはすごいことですよね。予算が多い現場とは言えないなかで、登場人物もロケ撮影も多い今回の撮影をどうやって実現させるのかと思っていたのですが、見事にやり遂げられました。役者もスタッフも監督に対する想いで集まっていたし、皆さんのマンパワーをすごく感じる現場でした。

──昼は郵便配達をしながら彫師でもあるという、原作とは違った設定の鷹巣に関して、監督から何かリクエストはありましたか?

リクエストというか、そこに監督の想いのようなものを感じました。人間の表と裏というか、白黒どちらかハッキリさせながらは生きてはいけないというメッセージを監督は原作から受け取ったのではないかと。鷹巣のキャラクターに関しては、元妻との関係や彫師の師匠である父親とのことは原作には描かれていないので、鷹巣のキャラクターを監督が肉付けしてくださったんだと思います。

撮影に入る前に一番こだわってらっしゃるなと感じたのが、鷹巣のサングラスで。衣装合わせの時に一番時間がかかったんですよ(笑)。サングラスの奥がどれくらい見えるようにするのかなど、何十個も試したなかから決まったのが劇中でかけているサングラスなんです。じつは鷹巣が着ている郵便局員の制服も既成のものをアレンジして作ったんです。ペンギンの衣装など、それぞれのキャラクターに合わせて組まれたコスチュームや、刺青にもぜひ注目して観ていただけると嬉しいです。