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労働意欲を削がない生活保護受給には「負の所得税」が効果的

 いま、生活保護の問題が取り沙汰されている。生活保護費は、国が定める「最低生活費」に基づいて決められている。年齢と居住地域によって違いがあるが、都内に住む30代の単身世帯なら、生活扶助8万3700円に加えて、住宅(家賃)扶助として最大5万3700円が加わり、合計13万7400円を毎月受け取ることができる。

 都内の30代夫婦、就学年齢の子2人の世帯で試算した場合、扶養家族分の保護費に授業料や通学費などの教育関連扶助を加えると少なくとも月額29万4260円。年収にすれば350万円である。また、医療扶助により医療費が無料となるほか、住民税や水道基本料金、NHK受信料の免除、自治体運営の交通機関の無料乗車券など、事実上の“追加給付”もある。

 ちなみに、都内の最低賃金(時給837円)で週5日、1日8時間働いた場合の収入は月額約13万4000円。しかも、ここから年金保険料や国民健康保険料、NHK受信料などを支払えば、それこそ生活もままならない。低賃金で働いた者の収入より、「働かずに得られる収入」の方が多いという不公平感は拭えない。

 制度そのものの改革の必要性もあろう。大阪府市特別顧問で「西成特区構想」を担当する鈴木亘・学習院大学教授は、「生活保護の大きな矛盾は、自立を謳いながら労働意欲を削いでいる点にある」と指摘する。

 何らかの収入があると、受給者はその分の保護費を減額される。そのため、「働いたところで、総収入は変わらないから働かない方が得」と考えがちだ。意欲の低下は受給者だけではない。先述したように、一家4人で「月収30万円」という現実を見れば、低賃金で働いたうえで公的サービスの料金を納める労働者が、「真面目に働くのはバカバカしい」という思いを抱く。鈴木教授が提案するのは、「負の所得税」と呼ばれる税制だ。

「これはノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマンが提唱したもので、所得の高い人に課税するのに対し、一定の所得を下回る人には一定の給付を与えるという考え方。これによってベーシックインカム(最低所得保障)を実現し、この額が生活保護による収入を上回るようにする。英国やオランダ、カナダなどで導入されています。また、15年近く続くデフレの中で生活保護費が下がっていないという点も改める必要があると思います」

 生活保護制度にも「負の所得税」の概念を加える方法があるという。

「勤労収入を保護費に上乗せするのです。単純に導入すればワーキングプアとの不公平感を広げてしまいますが、生活保護受給中の収入は福祉事務所が管理する口座にプールし、生活保護を脱した時の生活費とする。これなら勤労意欲を削がず、勤労者との不公平感も生まないのでは」(同前)

※週刊ポスト2012年6月1日号

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