「子供がたった10分で寝る」と話題になり、シリーズ累計で100万部を突破した絵本がある。『おやすみ、ロジャー 魔法のぐっすり絵本』(飛鳥新社)は、スウェーデンで自費出版された後、世界中でベストセラーになった絵本だが、一番売れているのは日本だ。なぜ特に日本で大ヒットしたのか。そこには日本独自の“仕掛け”があった――。

企画段階から「この本は売れる」と確信していた

読み聞かせると、子どもがたった10分で寝てしまう……。『おやすみ、ロジャー 魔法のぐっすり絵本』(以下、ロジャー)は、実際に幼い子どもの寝かしつけに苦労している親たちに支持されて、シリーズ累計100万部超えの大ヒット。2016年の年間ベストセラー総合ランキングでは石原慎太郎『天才』に続く2位に入った(日販調べ)。

ロジャーはもともと、スウェーデンの行動科学者カール=ヨハン・エリーンが2010年に自費出版した本だ。「たった10分で子供が寝る!」と話題になり、イギリス、アメリカ、フランス、スペインなど欧米各国のアマゾンで総合ランキング1位を獲得し、一躍世界的なベストセラーとなった。のちに日本版ロジャーの担当編集者となる飛鳥新社の矢島和郎氏がこの本を知ったのは、ちょうどそんなタイミングだった。

(左)『おやすみ、ロジャー 魔法のぐっすり絵本』(飛鳥新社)(右)スウェーデンの行動科学者、カール=ヨハン・エリーン氏

矢島氏は2児の父親。共働き夫婦で、子供の寝かしつけは矢島氏の担当だ。当時3歳の長男はなかなか寝てくれず、毎日寝かしつけに1時間ぐらいかかって困っていたという。そこで試しにロジャーの原書を簡単に訳して、長男に読み聞かせてみたところ、「眠い眠い」とモゾモゾ動き出し、なんと5分ぐらいで寝てしまったという。ロジャーの効果を目の当たりにした矢島氏は「自分と同じように子供の寝かしつけに困っている、多くのパパ・ママの役に立つだろう。きっと日本でも売れる」と確信した。

その後、無事日本での販売権を取得したのが2015年9月。通常、翻訳本は時間をかけて作成するが、絵本が最も売れる時期である、クリスマス前には販売したかった。また欧米で話題になっているうちに日本でも売り出そうということで、2カ月後の2015年11月発売に向けて、急ピッチで制作を開始した。

睡眠の専門家に監修を依頼、“眠くなる言葉”を選んで翻訳

ロジャーの著者は心理学・言語学研究者であり、なぜ眠くなるのかという心理学的な裏付けに基づいて書かれている。それもあって矢島氏が特に苦労したのが、翻訳する際の言葉選びだったという。「普通に翻訳するだけでは効果が半減してしまうと思い、睡眠の専門家である快眠セラピストの三橋美穂氏に監修をお願いし、一つひとつこだわって訳しました」

例えば原文だと「Daddy」は幼児語なので、「パパ」と訳すのが一般的だ。しかし「パ」は破裂音なので、子どもが目を覚ましてしまう可能性があるという意見が出て、「お父さん」と訳した。また読み聞かせるための絵本ということで、実際に声に出して読んでみて違和感がないか、三橋氏と何度も読み合わせを行った。

「2人で読んでいると僕たちも眠くなってしまうので、あくびをしながら作っていましたね(笑)」