2021年9月までの「歴代最長」の在職日数を視野に入れる安倍晋三首相。しかし2006年発足の第一次内閣は約1年で辞任に追い込まれています。5年の雌伏を経て、「強い首相」として復活できたのはなぜか。「リーダーシップの使い分け」をテーマに分析してみましょう――。(後編、全3回)

リーダーシップを上手に「着替え」た安倍首相

この連載のバックボーンとなる考え方は、「まるで服を着替えるように、さまざまなスタイルのリーダーシップを使い分ける」というもの。ところが、「そんな器用なことができるのかなぁ」と疑問を持つ方もいるようです。答えはもちろん、「できる」です。

実は私たちの身近に上手にリーダーシップを「着替えた」人物がいます。それが安倍晋三首相です。今でこそ力強いリーダーシップを感じさせる安倍首相ですが、過去に「リーダー失格」と呼べるほどの大きな失敗をしました。それが2006年から2007年にかけての第一次安倍内閣で、最終的には政権を投げ出すかのように辞任してしまったのです。その後、雌伏すること5年あまり。再度登場した後、長期政権となった現在の安倍内閣です。

リーダーシップという観点では、第一次内閣の時の安倍首相は、周囲の意見をよく聞くスタイルに見えました。同じ時期に総理の座を争った麻生太郎氏を重要ポストにつけて、「ご意見番」として活躍を期待していたのもその表れでしょう。

ところが、そのリーダーシップスタイルは当時の政界にはマッチしていませんでした。徐々に周りから信望を失っていき、ついにはリーダーの座を自ら降りてしまったというのが、第一次安倍内閣の最後でした。

自身の政治生命を危うくするような失意の中、安倍首相はきっと考え抜いたことでしょう。「リーダーシップスタイルを変えることなしには、表舞台に返り咲くことはあり得ない」、と。そして再び登場したとき、自ら掲げた目標をぶれることなく推し進めるために、安倍首相はリーダーシップを「着替え」ていたのです。

パスゴール理論でリーダーシップを読み解く

実は、この安倍首相の「リーダーシップの着替え」を予言するかのような理論があるのです。それがロバート・ハウス教授によって確立された「パスゴール理論」です。ちなみに「パス」は英語ではPath(道)ですから、「ゴールに至る道筋へフォロワーを誘うのがリーダーの役割」というニュアンスです。

この理論の下では、「仕事の状況」と「部下の状況」という2つの要素を考慮した上で上司がとるべきリーダーシップスタイルを、4つに分類しています(図表参照)。そして、同じリーダーであっても状況によってとるべきスタイルを変えるべきだといいます。