新型コロナウイルス感染拡大による休校長期化で検討されていた「9月入学」について、安倍晋三首相は来年度の導入を見送った。教育評論家の石田勝紀さんは「コロナの第2派で再び休校となったら、未消化の学習分野が大量に出る。9月入学という選択肢を考慮しないのは問題だ」という——。
自民党の秋季入学制度検討ワーキングチームの柴山昌彦座長(左)から提言書を受け取る安倍晋三首相=2020年6月2日、首相官邸
写真=時事通信フォト
自民党の秋季入学制度検討ワーキングチームの柴山昌彦座長(左)から提言書を受け取る安倍晋三首相=2020年6月2日、首相官邸

来年度の「9月入学」見送りで発生する、マズイ問題

新型コロナウイルスの感染拡大で休校が長期化している。このため安倍晋三首相は「9月入学」について、4月29日の衆議院予算委員会では「前広にさまざまな選択肢を検討したい」と答弁し、さらに5月14日の記者会見では「有力な選択肢の一つ」と踏み込んでいた。

しかし6月2日、安倍晋三首相は自民党の9月入学に関するワーキングチーム座長の柴山昌彦元文部科学相に対し、「法改正などを伴う形での導入は困難」との見解を伝え、来年度の導入を見送る意向を示した。

入学・始業の時期の変更には、多方面に想定外の労力とコストがかかる。そのため、「現行(4月入学・始業)の制度を変更しない」のが最もラクだ。しかし果たして、その決定で問題はないのか。

今、文科省や学校関係者が最も注力すべきこと。それは2カ月にわたる休校措置により遅れた学習をいかにして取り戻すかということである。各自治体では、その対処として(1)夏休みなどの長期休暇の大幅短縮、(2)土曜日登校、(3)7時限目の設定や、(4)学校行事の中止、などを検討しているようである。

4、5月の「2カ月間休校」のインパクトは非常に大きい。2020年度の学校のカリキュラムを100%完璧な形で実施することは物理的に難しい。

ただ、上記の各自治体の「対策」を来年3月まで進行することが可能なら、100%まではいかなくてもある程度のカリキュラム消化は可能だろう。とりわけ「休校」の影響を受ける来春入試を控える中学3年生、高校3年生に関しては入試を配慮し、その他の学年は、学習の遅れに関して複数年にわたる履修を認めることで解消することもできる。事実、そのような通知が5月15日に文科省から全国の教育委員会へ通達されている。

よって、「9月入学」の見送りはさほど問題にならないという向きもあるが、自民党ワーキングチームの議論には、落ち度がある。

それは、「現行の4月入学制度のまま進める案(2020年度は一部のカリキュラム変更・削減、入試の範囲の限定化、複数学年にまたがっての履修、など)」は、今後、新型コロナの第2波、第3波による影響を考慮しないで組み立てられたものだということだ。