焦点:再び敵基地攻撃能力の保有議論、北朝鮮のミサイル進展で

焦点:再び敵基地攻撃能力の保有議論、北朝鮮のミサイル進展で
 3月8日、北朝鮮の弾道ミサイル開発の進展を受け、政府・与党内で敵基地攻撃能力の保有議論が再び活発化してきた。写真は北朝鮮の軍事パレード、2013年7月平壌で撮影(2017年 ロイター/Jason Lee)
[東京 8日 ロイター] - 北朝鮮の弾道ミサイル開発の進展を受け、政府・与党内で敵基地攻撃能力の保有議論が再び活発化してきた。これまで幾度となく浮上したテーマだが、費用や技術的な難しさに加え、地域の軍拡競争につながることなどを懸念する米国の支持を得られず、実現してこなかった。
議論を主導する自民党は、抑止力が高まるとして今年夏前までに政府への提言を再びまとめる考えだ。
<在日米軍基地の攻撃を想定>
敵基地攻撃能力は、F35のようなステルス戦闘機による空爆や、巡航ミサイルといった打撃力を使い、敵国内のミサイル発射装置などを破壊する能力。専守防衛を掲げ、抑制的な防衛力の整備を基本としてきた日本は、たびたび保有論が頭をもたげつつも、この能力を米軍に依存してきた。
しかし、同盟国の自助努力を訴えるトランプ政権が米国で誕生したことで、能力保有の検討を進めるべきとの声が自民党を中心に再び浮上。さらに今年2月と3月に発射された北朝鮮の弾道ミサイルが、議論に拍車をかけている。
自民党の今津寛・安全保障調査会長は「巡航ミサイルなのか、F35なのかは分からないが、(能力を)持つこと自体が抑止になる。それすらないと、北朝鮮から日本は何もしてこないと見られる」と話す。
政府・与党関係者が特に衝撃を受けたのが、今月6日に4発のミサイルを日本海へ発射した後、北朝鮮が国営通信を通じ、在日米軍基地への攻撃を想定した訓練だったと明らかにしたこと。脅威のレベルが上がったと、関係者は口をそろえる。
自民党内の議論を主導する小野寺五典・元防衛相は「相手の領土からミサイルが飛んできて日本を攻撃するというのは、かつては想定していなかった」と指摘する。「しかし技術が進み、北朝鮮のような何をするか想定できない国が、その技術を持ったとすれば、1発撃たれた後に2発目、3発目を撃たせないための能力も必要だ」と話す。
<「基礎研究は終わっている」>
日本政府は改良した迎撃ミサイルの配備を急ぐとともに、陸上配備型イージスなど新型迎撃ミサイルの導入の検討を進めている。その一方で、敵基地攻撃能力の研究も水面下で続けてきた。政府関係者の1人は「基礎研究は終わっている」と話す。
比較的容易なのは、沖縄県与那国島に島しょ防衛用の地対地ミサイルを配備すること。北朝鮮も射程に入れることが可能という。
米ロッキード・マーチン製の射程1000キロの空対地ステルスミサイルや、もう少し飛距離が短いノルウェーのコングスベルグ社が開発したジョイント・ストライク・ミサイルをF35に積めば、すぐに能力が整う。
自民党は今から4年前にも敵基地攻撃能力の保有を政府に提言しているが、今ほど北朝鮮の弾道ミサイルの能力が高まっておらず、政府が正式に採用することはなかった。アジアの軍事バランスが崩れることなどを懸念した米国が、難色を示したことも影響した。
自民党は今国会の会期末までに政府への提言をまとめる。2019年度からの次期中期防衛力整備計画に反映させたい考えだが「そこまで待って良いのか。可能なものは18年度予算から取り組むべき」(自民党関係者)との意見も出ている。
一方で、「こちらが攻撃をした後に、相手がどういう反応をしてくるのか。基地を1つたたいたら、どんどん撃ち返される恐れもある。リスクについても検討する必要がある」(別の自民党関係者)と、慎重な議論を求める声もある。

久保信博、ティム・ケリー 編集:田巻一彦

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