アングル:東芝半導体入札、鍵握るファンドの動き 狭まる選択肢

アングル:東芝半導体入札、鍵握るファンドの動き 狭まる選択肢
 4月24日、東芝の半導体メモリー事業の売却をめぐり、国内外のファンドの動向が入札の行方を左右しそうだ。複数の関係筋によると、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツが官民ファンドの産業革新機構との共同応札を検討している。写真は東芝のロゴ、2月都内で撮影(2017年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 24日 ロイター] - 東芝<6502.T>の半導体メモリー事業の売却をめぐり、国内外のファンドの動向が入札の行方を左右しそうだ。複数の関係筋によると、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が官民ファンドの産業革新機構(INCJ)との共同応札を検討している。
一方、米半導体大手ブロードコムと米投資ファンドのシルバーレイクの連合が金額面などで有利な条件を示しているとみられ、どの陣営が優先交渉権を得るのか予断を許さない状況が続いている。
この入札では、提示価格などのほか、日本政府による事実上の同意、同業他社が落札した場合の各国の独占禁止法の審査期間、東芝の提携相手である米ウエスタンデジタル(WD)の意向が大きな制約要因になっている。いずれも無視できない状況の中で東芝側の選択肢は狭まっており、同社再建への影響も読みにくい情勢だ。
<KKRと産革機構、「遺恨」超えて連携か>
先週末、日本経済新聞など日本国内の複数メディアは、東芝のメモリー事業の入札について、「KKRと産業革新機構を軸に入札が進む」などと報道。東芝のある幹部も「1つの組み合わせだ。(売却先選定の)解は限られている」と、水面下で調整が進んでいることを認めた。
INCJの志賀俊之会長は18日の記者会見で、「これだけの案件なので、関係ないということにはならない。注目している案件だ」と述べ、投資に前向きな姿勢を示している。
東芝は今回の入札実施を目的にメモリー事業を「東芝メモリ」として4月に分社し、その企業価値を「少なくとも2兆円規模」(東芝の綱川智社長)とみる。これに対し、産業革新機構の投資余力は1兆円規模。志賀会長は「単独ではできないので、いろいろなところとの組み合わせになる」としていた。
そのパートナーに浮上したのがKKRだ。KKRはかつて1000億円の出資をルネサスエレクトロニクス<6723.T>に提案したものの、結果的にINCJがルネサスのスポンサーに決まった経緯があり、「遺恨」を超えた提携を連想させる組み合わせだ。
ある政府関係者は今回の売却案件について、「事業会社よりりもファンド」が有力だと指摘する。今回の売却案件は、1)独占禁止法上の審査の長期化、2)外為法に基づく安全保障上の観点──の2点を制約条件として進めざるを得ないことが、米系ファンドが有力候補に浮上したことの背景にある。
<アジア企業排除の論理>
東芝は、2017年3月期で6200億円の債務超過になる可能性があると公表。18年3月末までに解消できなければ上場廃止になるため、できるだけ早期に東芝メモリの売却手続きを終えたいという事情がある。
NAND型フラッシュメモリー市場は、上位5社で9割超の世界市場シェアが集中、同業他社が買収した場合、各国独占禁止法上の審査が長期化するとみられる。このため、今回の入札に参加、同メモリーでシェア5位(英調査会社IHSマークイット調べ)の韓国SKハイニックス<000660.SK>は不利だとの見方が根強い。
昨年、シャープ<6753.T>を買収した台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業<2317.TW>も「排除の論理」の対象になっている。今回の入札で、2兆円を超える規模の買収金額を提示したとされる鴻海について経済産業省幹部は「中国本土と深い関係がある」と指摘。安全保障上の観点から技術流出を防ぐ目的で外為法上の規制を通じて、鴻海への売却を阻止する構えだ。
同幹部によると日本政府は、東芝がメモリーを生産する四日市工場を業界首位の韓国サムスン電子<005930.KS>追撃の拠点に位置付けており、同じ韓国勢への売却にも難色を示している。
<勢いあるブロードコム、警戒するWD>
独禁法と外為法など今回の売却案件に特有の制約が比較的少ないのが、米半導体大手ブロードコムだ。親密な関係にあるシルバー・レイクと組み、東芝が3月末に締め切った1次入札でも比較的高い金額を提示したとされ、一部で「有力」と報じられた。
米調査会社ガートナーによると、2016年の世界半導体売上高でブロードコムは5位。昨年2月に、370億ドルと半導体業界で史上最大(当時)の買収を行い、一気に業界上位に躍り出た。
ブロードコム陣営の関係者は「半導体で勝つために必要な要素は3つ。技術、カネ、リーダーシップで、1つでも欠けたらサムスンには勝てない。サムスン以外で一番カネがあるのがブロードコムだ」と強調する。ブロードコムは、通信用半導体などが主力で、メモリー事業は抱えていないため、独禁法上の審査が長期化するリスクも小さい。
同陣営に「待った」を掛けているのが、東芝とメモリー事業における生産パートナーの米ウエスタンデジタル(WD)だ。WDは、同事業の分社化は合弁契約の「重大な違反」であるとの抗議の書簡を今月9日に東芝に送付。WDの同意なしでの第三者への事業譲渡を拒否する姿勢だ。WDは同書簡の中で、ブロードコムについて「大きな懸念を有している」と、警戒感を隠さない。
<情勢、予断許さず>
東芝幹部は「WDとの契約は当然無視できない」と受け止める一方で、別の幹部はWDについて「交渉は続けているが、正式な入札プロセスには入っていない」と明かす。WD側は、そうした指摘を否定しているが、東芝側は存立がかかる半導体売却が佳境に入った中で「注文」がついたことへの反発も強い。
ハードディスクドライブ(HDD)世界最大手のWDは、データ記憶媒体としてフラッシュメモリーがHDDの市場を侵食し始めたタイミングで、サンディスクを昨年5月に約160億ドルで買収。事情に詳しい業界関係者は「WDにとっては、なぜ東芝メモリを買収しなければいけないのかという受け止めだ。そのカネがあれば設備投資に回したいはずだ」と指摘する。
2次入札は5月中旬が締め切り。同関係者は「いろいろな提案があるが、帯に短したすきに長しの状況だ」だと指摘している。

浜田健太郎 取材協力:宮崎亜巳 編集:北松克朗

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