焦点:トランプ氏の不法移民対策、「壁」にぶち当たる可能性

焦点:トランプ氏の不法移民対策、「壁」にぶち当たる可能性
 1月26日、トランプ大統領は、米国で不法移民を捕らえても審理まで釈放する現行の「キャッチ・アンド・リリース」方針をやめようとしているが、その計画は壁にぶつかる可能性があると、移民保護団体は警鐘を鳴らす。写真は、米国とメキシコ国境沿いに新たに建設されたフェンス。メキシコのシウダーフアレスから撮影(2017年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)
[グアダルーペ(メキシコ)/トーニロー(米テキサス州) 26日 ロイター] - トランプ大統領は、米国で不法移民を捕らえても審理まで釈放する現行の「キャッチ・アンド・リリース」方針をやめようとしているが、その計画は壁にぶつかる可能性があると、移民保護団体は警鐘を鳴らす。
ただしその壁は、同大統領がメキシコ国境沿いに建設しようとしている壁ではない。
「移民を釈放したくないなら、彼らをどこに収容するのか、その場所を教えてほしい」とトランプ大統領に問いかけるのは、テキサス州エルパソにあるローマカトリック教会系団体の責任者ルーベン・ガルシア氏だ。同団体は、移民の家族に保護施設を提供している。
トランプ大統領が不法移民を抑制するためのより厳しい措置を発表した25日までの3日間に、ガルシア氏の団体は、米移民税関捜査局(ICE)から釈放された400人以上の移民を受け入れた。
「彼ら(ICE)が釈放するのは、捕まえてすぐに釈放したいからではない。収容所に十分な空きがないからだ」とガルシア氏は語る。
このことは、「キャッチ・アンド・リリース」に終止符を打つ場合に起こり得る問題を露呈している。米当局によって捕らえられる移民のほぼ半数が中央アメリカからの家族や子どもであり、こうした移民向けの収容スペースはごくわずかだからだ。
トランプ大統領は移民家族が入れる収容所の数を増やす計画を表明している。だが、それは完成までに時間を要するだけでなく、訴訟に直面する可能性もあると、移民問題を専門とする法律専門家は指摘する。
米税関・国境警備局(CBP)のデータをロイターが調査したところ、中央アメリカ出身の家族が、国境で自ら身柄を引き渡し、本国送還や亡命申請の結果を待つ間に釈放されるケースが増加傾向にあることが分かった。
CBPのデータによると、昨年10─12月にメキシコ国境で米当局に自ら身柄を引き渡した移民の数は、前年同期比で25%増加した。
国境警備員はメキシコ国境を渡ってやってくる計13万6670人を捕らえたが、これは2008年以降で最も高い数字となっている。彼らの48%は、保護者を伴わない子どもか、子どものいる家族だった。
約4万5000組の親子が10─12月に捕らえられたが、ICEのデータ(2016年)によれば、中央アメリカ出身者向けのベッド数は約3300人分しかなく、大部分が国境沿いのテキサス州カーネスとディリーの収容所に集中している。
大半の家族が中央アメリカ出身のため、すぐに引き返し、メキシコに送り返すわけにもいかない。
子どものいる家族のための収容所が不足しているということは、大半がホンジュラスやグアテマラやエルサルバドルからが貧困と暴力を逃れるためやってきた移民たちが、電子機器の足輪を着けられ、審理日を告げられて釈放されることを意味している。
多くが亡命申請をするが、手続きには5年、あるいはそれ以上かかることもあると移民弁護士は指摘する。亡命申請をしなくても、移民裁判所での審理を経て送還されるまでには何年も要する可能性がある。
トランプ大統領はオバマ前大統領の下で行われていた、一時的に移民を収容するために米軍基地を利用するという政策を拡大するかもしれない。また、既存の他の施設を改修する方法を探る可能性もある。
カーネスとディリーにあるような収容所を新たに建設するのは時間がかかるだけでなく、施設内の生活環境を懸念する人権派弁護士によって訴訟を起こされるのが常である。
トランプ大統領はまた、自国から最初に亡命申請を行う中央アメリカ出身の移民希望者の数を増やすというオバマ前大統領の政策を拡大しようとする可能性がある。
長期的には、メキシコから申請できるよう同国に要請することもあり得るが、メキシコ国境沿いに建設する壁の費用を同国に払わせるとトランプ大統領が宣言したせいで、2国間関係は現在かなり悪化している。
移民を保護している団体の責任者であるガルシア氏は、もしトランプ大統領が家族向けの収容所を数千カ所開設することに最終的に成功するならば、移民の流入ペースは減速するだろうと認めている。
「閉じ込められて飛行機に乗せられる可能性が高くなったといううわさが広まるだろう」とガルシア氏。中央アメリカ出身者は通常、飛行機で本国に送還される。
<「自首」が増加>
米当局に「自首」する移民の数はテキサス州マッカレン周辺で最も多い一方、とりわけメキシコと国境を接するエルパソで急増しているのが目立つ。ここでは、昨年10─12月に捕らえられた移民の6割は子どもか家族だった。
近年、移民の流入がそれほど多かったわけではなかったエルパソだが、昨年10─12月には5200家族が捕らえられた。これは前年同期と比べて3倍近く増加したことになる。また、保護者を伴わない子どもの移民は1972人に上り、倍増している。
エルパソから同じくテキサス州のトーニローを越えた辺りまで約65キロに及ぶ、高く赤褐色のフェンス沿いでは、米国境警備員のホセ・ロメオ氏がそのような傾向を目の当たりにしている。
「現在、米国に渡ろうとする多くは家族で、自ら捕まろうと警備員を探している」とロメオ氏は話す。かつては見つからないようにしている移民がもっといたが、今では「彼らは捕まりたいと考えている」と同氏は語る。
2010年に完成したフェンスは、テキサス側ではピーカンナッツ畑と灌がい用水路の近くで、リオグランデ川を挟んだメキシコ側では麻薬戦争で荒れ果てたバジェ・デ・フアレスで突然途切れる。
昨年2月、メキシコのペニャニエト大統領と米オバマ政権のプリツカー商務長官は、2国間貿易の促進を期待してテキサス州トーニローとメキシコのグアダルーペの間に新たに主要な検問所を開設した。
昨年11月時点では、この橋の交通量は依然として少なかった。
代わりにICEは、周辺地域で急増する米当局者に捕らえられた移民家族の手続きを促進すべく、橋の米国側のアスファルトの上に500カ所の白テントを設けて一時的な収容所としている。
(Frank Jack Daniel記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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