焦点:有権者を逆なでするトランプ氏、岩盤支持の福音派も離反か

焦点:有権者を逆なでするトランプ氏、岩盤支持の福音派も離反か
 6月18日、大統領選まで4カ月余りとなった現在、ロイター/イプソスを含めた最近のいくつかの世論調査では、野党・民主党の候補指名を確定させたバイデン前副大統領の支持率が、トランプ大統領を上回り続けている。写真は保守派の黒人支持層と面会した際のトランプ氏。6月10日、ワシントンのホワイトハウスで撮影(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)
James Oliphant Chris Kahn Jeff Mason
「ワシントン 18日 ロイター] - 米ホワイトハウスに臨時に設置された、人種差別への抗議に押し寄せるデモ隊向けの警備フェンスはこのほど撤去された。だがトランプ大統領と国民の距離は、かつてないほど広がってしまったようだ。
11月3日の大統領選まで4カ月余りとなった現在、今週のロイター/イプソスを含めた最近のいくつかの世論調査では、野党・民主党の候補指名を確定させたバイデン前副大統領の支持率が、トランプ氏を上回り続けている。
もっとはっきり分かるのは、ミネソタ州で白人警官が黒人男性ジョージ・フロイドさんの首を押さえつけて死亡させた事件をきっかけに、急速に変化が起きた有権者の考え方から、トランプ氏がどんどん離れてきているという状況だ。
プロフットボールNFLや、米国最大の自動車レースを主催する全米自動車競争協会(NASCAR)は、世論の風向きがあっという間に変わったことを真摯(しんし)に受け止め、選手からの人種差別に対する抗議にも耳を傾けている。ブランドに人種差別的な要素があると批判された企業も、すかさず対応に乗り出した。
ところが3月以降のロイター/イプソス調査を分析すると、トランプ氏は、新型コロナウイルス感染のパンデミック(大流行)や警察改革など米国民がいま重視する問題で、多数意見の逆に動いている。そのためか、さまざまな層の有権者はもちろん、農村部などの住民や白人のキリスト教福音派といった、本来トランプ氏への忠誠心が最も強いグループでも、継続的に同氏の支持率が低下しつつある。
直近の支持率を見ると、バイデン氏のトランプ氏に対するリードは13%ポイントと、今年に入って民主党の候補指名争いが始まって以来、最大になった。郊外の住民や無党派層、高所得層などがバイデン氏を大きく後押ししている。伝統的に共和党びいきの男性、郊外に住む女性、55歳より上の中高年といったグループさえも、最近ではバイデン氏に支持が流れているもようだ。
複数のホワイトハウス元高官は、トランプ氏が米国で黒人が抱える課題を理解しているとアピールする必要があるとの見方を示した。そのうちの1人は「多くのマイノリティーや黒人が直面している真っ当な懸念材料に対して、トランプ氏はもっときちんと向き合わなければならない」と苦言を呈した。
トランプ氏の支持者らは、劣勢を覆すだけの時間はたっぷりあり、景気回復が再選に向けた追い風になりそうだと気勢を上げる。実際、ここ数週間出てきた経済指標は予想外に好調で、米経済が「V字」回復するとの期待も高まっている。
ただトランプ氏は幾多の危機に揺れる米国を1つにまとめるよりも、強固な支持層だけを喜ばせようとしているのが明らかな以上、逆に頼みの綱は経済しかない、というのが専門家の見立てだ。
世論調査結果を分析しているバンダービルト大学のジョン・ギア教授(政治学)は「支持層にのみ目を向け続けるトランプ氏のやり方は、共和党穏健派や無党派層を離反させる代償を伴っている。この傾向が変わらないなら、トランプ氏にとって大敗北の結果になりかねない」と指摘した。
トランプ陣営は世論調査結果に反応を見せていないが、トランプ氏はツイッターで、自分は米国の価値観に寄り添っており、自分の支持者は「サイレント・マジョリティー(物言わぬ多数派)」に属していると主張した。サイレント・マジョリティーは、ベトナム戦争で社会がやはり騒然としていた約50年前、当時の共和党のニクソン大統領が演説で持ち出して有名になった表現だ。
<あまのじゃく>
しかし世論調査のデータからは、トランプ氏の主張は裏付けられない。
フロイドさんの死をきっかけに全米に広がった抗議デモに関して、有権者の3分の2は共感を示した。一方トランプ氏はデモ鎮圧に軍の投入を公然と提案した。トランプ氏がホワイトハウス近くの教会前での写真撮影に出掛けるためだけに、平和的なデモ隊を警察に強制排除させた場面もあった。
トランプ氏は全面的な警察改革にも応じていない。フロイドさんの事件後の世論調査では、警官のチョークホールド(首締めによる拘束)禁止に82%、レイシャル・プロファイリング(人種的外見に基づく犯罪捜査)禁止に83%、警官のボディーカメラ装着義務化に92%、警察の不正に対する外部調査の導入に91%がそれぞれ賛成した。それにもかかわらずトランプ氏が今週発表した改革案には、これらの項目は全く盛り込まれなかった。
新型コロナの脅威をトランプ氏が当初軽視していたこともよく知られており、何とか感染拡大を抑えようとしていた何人かの州知事との間で言い争いになった。さらに新規感染者が急増しているオクラホマ州で、トランプ氏は20日に選挙集会を再開しようとしている。ロイター/イプソスの調査では、76%の有権者がなお感染拡大を危惧している中での話だ。
連邦最高裁が15日、LGBTQなど性的少数者への雇用差別を禁じる判決を下した際には、トランプ氏が起用した保守派のゴーサッチ判事もこの判決を支持。そのわずか前週に医療保険制度でトランスジェンダーの保護規定を撤廃したトランプ政権が、いかに米国社会から浮き上がっているかが改めて示された。
<優先課題のはき違え>
バンダービルト大のギア氏は、トランプ氏が米国の多数意見に同調したことは今まで一度もないと話す。
実際、2016年の大統領選に出馬したトランプ氏は、反既成勢力の立場を打ち出し、白人労働者層に対して雇用の国外流出や移民流入の不安をたきつけた。こうした作戦が奏功し、国民からの得票数そのものでは負けながらも選出された選挙人の数で当選を果たした。
ただし新型コロナと経済悪化が国民にとって重大な懸念材料となった今、トランプ氏がずっと提唱してきた移民取り締まりはもはや優先課題ではなくなっている。直近の調査では、共和党員の間でさえ、移民が一番の心配だと答えたのは8%にとどまった。昨年1月時点では、これは34%だった。
また専門家の話では、白人層の不満に焦点を当てるトランプ氏の手法は、黒人が置かれた不公平な立場が広く認識されてからは、意味をなさなくなった。トランプ氏としては、米国の今の状態をもたらした「犯人」を探し、攻撃するのに苦戦している状態だ。
そうした背景もあり、4月から6月までにキリスト教福音派のトランプ氏支持率は11%ポイントも低下。農村部などでも過去1カ月で14%ポイント下がり、半数以上が「黒人の命は大切」運動に共感すると答えた。
共和党内からは、トランプ氏の支持低下が、大統領選と同時に行われる上院選に影響を及ぼし、得票を減らすとの指摘も出ている。共和党は今年の選挙が悲惨な結果になる事態も覚悟し始めているというのだ。

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