焦点:米経済再開から1カ月、回復速い地域ほど感染拡大のジレンマ

焦点:米経済再開から1カ月、回復速い地域ほど感染拡大のジレンマ
米経済は活動再開から1カ月の節目を迎えるが、景気回復のペースおよび継続性も、米国がコロナウイルスの感染を抑え込めるかどうかも、依然として不透明だ。写真は5月28日、カリフォルニア州コマースの商業施設で撮影(2020年 ロイター/Mike Blake)
Howard Schneider
[ワシントン 11日 ロイター] - 米経済は活動再開から1カ月の節目を迎えるが、景気回復のペースおよび継続性も、米国がコロナウイルスの感染を抑え込めるかどうかも、依然として不透明だ。
携帯電話の位置情報や従業員の勤務時間管理、週間失業保険申請件数といったデータは、景気回復が着実に進んでいることを示している。だが統計は州による違いが鮮明な上、経済活動の回復ペースが速い場所ほど感染が広がっていることを示す証拠もある。
こうした状況は、政策決定者が今後数週間で厳しい選択を迫られることを意味しているのかもしれない。
ムニューシン米財務長官は、新型コロナの感染が今後どのようになるにせよ、米経済を再び封鎖することはないと表明した。このため、公衆衛生上の不安と、厳しい感染抑止策の復活に対する忍耐力の低下を天秤にかける仕事は、州・地方政府に委ねられるだろう。
同時に、経済活動は急速に回復しているわけではなく、一律に改善してもいない。つまり米国内は、新型コロナ対応の潜在的な勝者と敗者にゆっくりと分かれつつあり、経済的影響を和らげるための緊急支援を追加すべきかどうかを巡る米議会の審議は、危うい綱渡りとなっている。一部の中小企業向け支援は既に期限を迎えつつあり、多くの労働者にとって、失業保険給付の拡充は7月下旬までの時限措置だ。
従業員の勤務時間管理を手掛けるホームベースが集計した中小企業のデータによると、事業を再開した企業は雇用が休業前の水準に素早く回復している一方、全国平均の雇用は低調にとどまっている。理由としてホームベースは、非常に多数の企業が事業を全く再開できていないと説明している。
調査会社マクロポリシー・パースペクティブのジュリア・コロナード社長は、人との接触が必要な職種では、経済的利益か健康かの選択を迫られる状況にあり、「こうした状況は長引くだろう」と話した。
<相反するデータ>
携帯電話の位置情報から人の動きを分析するウナキャストによると、全米で小売店の客足は先週、2019年水準の20%以内にとどまった。一方、勤務時間管理のホームベースとクロノスによると、働いている人の割合は全業種にわたってもっと増えていた。対人距離を保つ措置が最も厳格化された4月には、活動は50%余り縮小していた。
11日に発表された週間失業保険統計も同じ方向性を示している。6日に終わった週の新規申請件数は減少し、5月30日までの週に失業保険受給総数は前週を下回った。事業を再開した企業が一部の労働者を復帰させた可能性を示すシグナルだ。
だが小売店の客足を示す統計は、地域間の格差が著しい。ウナキャストのデータによると、モンタナ州からアラマバ州を結ぶ一帯にあり、全米の約3分の1を占める各州では、客足は完全に回復したことが示されている。
一方、新型コロナの大流行で比較的早い段階から影響を受け打撃が深刻だった沿岸部の各州は、客足がほとんど回復していないことが示された。これらの州は大半が民主党の勢力が強い。3月13日に国家の緊急事態が宣言されて以降、19州は小売店の客足が2019年の水準に戻った日が1日もなく、そのうち14州は沿岸部の州だった。
だがロイターの分析では、これらの州は全般に、新規感染の抑え込みで、より着実な進展がみられる。
景気回復と新型コロナ感染動向の軌道が反対方向を向いていることは、今後数週間にわたってアナリストと政策決定者を悩ませることになりそうだ。
この難問は、10日の連邦公開市場委員会(FOMC)後のパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長による記者会見でも、中心的な話題だった。議長は、新型コロナのワクチンが開発されるか、有効な治療方法が見つかるまでは、感染抑制の取り組みが各州、市ごとに進められるため、失業率が数年にわたって高止まりする可能性があると述べた。

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