コラム:中国がトランプ貿易戦争に勝てる理由

コラム:中国がトランプ貿易戦争に勝利する理由
 8月6日、トランプ米大統領が中国との貿易戦争に勝つことを期待できない理由を知りたければ、ネット通販大手アマゾンの中国版とも言えるアリババ・グループ・ホールディングを見れば事足りる。写真は2018年7月、ドイツのハンブルグ港に荷揚げされるコンテナ(2018年 ロイター/Fabian Bimmer)
David A. Andelman
[6日 ロイター] - トランプ米大統領が中国との貿易戦争に勝つことを期待できない理由を知りたければ、ネット通販大手アマゾンの中国版とも言えるアリババ・グループ・ホールディングを見れば事足りる。
筆者は先月、アリババの最高戦略責任者で、中国のビジネス・金融界最高の知性の1人とされる曽鳴氏と2度突っ込んだ話をする機会を得た。曽氏が明確に指摘したのは、中国にはもはや、米国を本当に必要としている分野はほとんどないということだった。米国製品は必要ないし、米国のアイデアはさらに必要ない。挫折をしても、中国は自分の力で立ち直れることを証明している。
一方で、トランプ政権は、最初から負けるよう計算された競争を、あるいは戦争を、実行するために最善を尽くしているようにみえる。
米大統領の最新の動きは、2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品に対する関税率を、当初予定の10%から25%に引き上げると脅すというものだった。それから24時間以内に、中国は、トランプ氏が脅しを実行した場合に5─25%の報復関税をかける600億ドル相当の米製品5207品目のリストを公表した。それらが実現すれば全面的な貿易戦争だろう。
幸いなことに、トランプ政権は、関税発効前のパブリックコメント(意見公募)の締め切りを9月に延長した。一方、太平洋の両端の市場は、時にパニック寸前でバランスを取りながら、落ち着かない商いを続けている。
中国株式市場の方が米国株式市場よりも打撃を受けているが、トランプ氏は、米国の方がより長く痛みに耐えることができ、締め付けを強めれば中国政府が交渉に応じると考えているようにみえる。
だがそれは、中国人の考え方や、1年前よりも弱含んでるとはいえ依然として米国の2倍近いペースで拡大している中国経済の底堅さに対する理解を欠いた考えだ。
そして、事の重大さやメカニズムをあまり理解していない人間が、待ち受ける大混乱に突入するとき、どこまで事態が悪化しうるかについて考えを巡らせた形跡もない。
ポンペオ国務長官は先週、中国に対し、孤立すらさせようとする新たな政策を華々しく発表したが、その規模と無意味さはほとんどばかげたものだった。「インド太平洋経済ビジョンプログラム」と呼ばれるこの政策は、アジアから欧州までを引き込む中国の経済圏構想「一帯一路」に対抗するものと広く受け止められている。だが、極めてけちな対抗策だ。
トランプ氏はこのプログラムに、1億1300万ドル相当を拠出すると約束したが、中国が3年前に820億ドルを出して開始し、現在では9000億ドル規模になったとみられる一帯一路と比べれば、誤差の範囲でしかない。競争にすらならないだろう。
それでいて、香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが指摘したように、米国の動きは「中国政府の猜疑(さいぎ)心に油を注ぎ、すでに通商問題で緊張をはらんでいる両国関係を悪化させる可能性」がある。
加えて、中国は通商世界戦略の手綱を握り続けるためにあらゆる努力を惜しまない構えで、6日には欧州連合(EU)離脱後の貿易協定に向けた交渉を英国に提案し、米国をけん制した。
米政府が中国との貿易戦争に勝つには、あるいは、相互に満足できる結論という長期的に見て最善の結果にたどり着くには、今後直面することになる「力」への理解が必要になる。
アリババの曽氏との会話から筆者が理解したのは、急速に発展する中国経済の大部分、なかでも国内に特化した部分は、通商のもつれに免疫があるか、回避策を探すことができるかのどちらかだということだ。筆者による曽氏へのインタビューは、フォーブス・アジア誌に掲載されている。
米当局は1月、アリババの金融子会社アント・ファイナンシャルによる米国際送金大手マネーグラム・インターナショナルの買収を阻止した。それを受けてアリババは、ブロックチェーン技術を使った、新しく、多くの点でより革新的な製品を開発した。
「新しいビジネスは、どんなものでも成長過程で障壁に直面するものだ。それは理解している。ビジネスにつきもののコストの一部だ」と、曽氏は言う。「不満に感じることもあるかもしれないが、われわれがつくり出す価値は極めて大きいため、何とか障壁を乗り越える方法を探し出すだろう」と付け加えた。
これは、中国の民間や国有企業の多くが、もはやシリコンバレーから発明を入手しようとしていないという意味ではない。米国が彼らをブロックすればするほど、中国勢は独自の解決策を見つけ出す可能性が高いということだ。
もう1つ例を挙げよう。米政府の外国投資委員会は昨年、米半導体大手インテルが株式の15%を所有し、米国でも営業する欧州の地図・位置情報サービス「ヒア(HERE)」の株式を、中国のデジタル地図サービス大手「ナブインフォ(Navinfo)」が取得しようとした案件を承認しなかった。
そこでナブインフォは、株式取得の申請を撤回し、ヒアや独自動車大手BMWやダイムラー、フォルクスワーゲンとの提携を拡大させた。ナブインフォは、フォーブスの世界で最も革新的な成長企業トップ100(2017年)に選ばれている。
確かに、中国は自動車市場のほか冷蔵庫や洗濯機などの家電で主導的な役割を担う一方で、人工知能(AI)などの分野では遅れがあるかもしれない。だが曽氏は言うように、「われわれの規模ではなく、われわれのイノベーションの経験と、未来がどこに向かっているかということについてのわれわれの理解が重要なのだ」
こうした深い理解と長期戦の覚悟が、貿易戦争で最終的に中国に勝利をもたらすのかもしれない。
中国人、特にその指導部は、極めて強い発達した自意識を持っている。外部の圧力に耐える指導部の能力は、毛沢東や共産党革命より前に起源がある。紀元前1000年ごろの中国古代の周王朝では、王の正当性は十分な徳があるかで判断され、天命を受けて支配するとされた。そのような宿命観や自尊心を持つ人々が、ドナルド・トランプのような世俗的な指導者を巨大な障壁とみなす可能性は低い。
中国では、メンツを失うことが最大の失敗と考えられている。
最善の、最も長続きする貿易協定は、少なくともウィンウィンでなければならないが、トランプ氏はいまや自らのアメリカ・ファーストの主張に深くはまり込み、中国指導部がメンツを失わない形で調整できる余地はあまり残されていない。
トランプ氏は、長い消耗戦に備えなければならない。もし誰もあきらめるよう彼を説得できない場合は、すべての米国人が、トランプ氏の通商「十字軍」の代償を払うことになるだろう。
*筆者は、米紙ニューヨーク・タイムズや米CBSテレビの元特派員。著書に「A Shattered Peace: Versailles 1919 and the Price We Pay Today」がある。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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