アングル:インドで苦戦するアップル、割高感や他社製品充実で

アングル:インドで苦戦するアップル、割高感や他社製品充実で
 11月7日、インドのソフトウエア技術者サミー・アラムさん(27)は、同国最大の祭り「ディワリ」シーズンに合わせた今週のセールで、思い切って値段の張るアップルの「iPhone(アイフォーン)」を買うつもりだったが、結局はより安い中国のワンプラス(一加手机)製スマホを選んだ。写真はニューデリーで2016年7月撮影(2018年 ロイター/Adnan Abidi)
[ベンガルール 7日 ロイター] - インドのソフトウエア技術者サミー・アラムさん(27)は、同国最大の祭り「ディワリ」シーズンに合わせた今週のセールで、思い切って値段の張るアップルの「iPhone(アイフォーン)」を買うつもりだったが、結局はより安い中国のワンプラス(一加手机)製スマホを選んだ。
13億人の消費者がいるインド市場でなんとか販売を伸ばそうとしているアップルにとって、スマホでコンテンツを視聴したり、ネットサーフィンや買い物を楽しむアラムさんのような人こそ、完璧な製品のターゲットだ。
ところが同国の平均年間所得は約2000ドルにとどまるのに対して、今年発売された新型iPhoneの「XR(テンアール)」の最低価格でも7万6900ルピー(1058ドル)に達する。多くの他社製品と比べれば、値段は2倍になるケースもある。
香港拠点のカウンターポイント・リサーチによると、その結果としてiPhoneは売れ行きが衰えつつある。販売台数は昨年の300万台から今年は200万台まで減り、年間ベースでは過去4年間で初めてのマイナスになる可能性があるという。
アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は先週、年末商戦について期待外れの見通しを示したが、インドでiPhoneの販売が拡大していないことも要因の1つに挙げていた。
価格が400ドルを超える比較的高価格なスマホに限ってみても、アップルは第3・四半期、サムスン電子<005930.KS>やワンプラスの後塵を拝している。
アラムさんは「今までiPhoneを使ったことがなかったのでぜひ手に入れたかったが、それは合理的な考えではなかった。スマホに期待しているのはストレージとカメラ、プロセッサの性能で、ワンプラスなどもっと安い他社製品の方が費用対効果が大きい」と述べ、新型iPhoneの値段はおよそ10万ルピーで、それなら他社の良いスマホが3台、あるいは相応のゲームが楽しめる高性能のラップトップ型パソコンが買えるとの見方を示した。
アップルの昨年のインドにおける売上高は、堅調なパソコン販売とiPhoneの高価格のおかげで20億ドルを確保し、依然としてワンプラスの2倍となった。とはいえ、カウンターポイントのデータに基づくと、両社の差は今後縮小していく。
ワンプラスのインド法人トップ、ビカス・アガルワル氏は今週ロイターに、最近数カ月で獲得した新規顧客の10─15%はアップルから流れてきたと語っており、根強い「アップル信者」の間でさえ、機種更新をしない人が出てきている実情がうかがえる。
<関税コスト>
アップルの抱える問題は価格だけではない。規制面でもいくつか悩みの種があり、インド部門では複数の幹部が年初に退社した。
同社の広報担当者は、幹部退社は業績とは無関係だと説明したものの、事情に詳しい関係者の話では、同社が販売態勢を変更したことが退社につながった公算が大きい。インド国内の販売請負業者はこれまでに5社から2社に減らされている。
モディ政権がハイテク企業に現地生産を促すため関連する輸入関税を引き上げ、サムスン電子やOPPO(オッポ、広東欧珀移動通信)、小米科技(シャオミ)<1810.HK>などが積極的にインド国内の生産に向けて投資をしている中で、アップルだけがインドで生産していないという現実もある。同社はインド国内では、ベンガルールで現地企業を通じて2つの旧機種の組み立てだけを行っている。
業界専門家は、このためにアップルはiPhoneの7─8割前後を引き続き輸入し、高い関税を払って販売価格がつり上がっていると指摘した。
米国ならXRの基本モデルの価格は749ドル(約5万4400ルピー)と、インド国内の3分の2にとどまる。
IDCのアナリスト、ナブケンダー・シン氏は「アップルは今のところ、インドの製造システムに十分な信頼を置かず、生産工場を立ち上げたり、中国から生産を移管したりしていない。だからおよそ15─20%の税制優遇を受けられず、消費者にその分を転嫁しているのではないだろうか」とみている。
<閑古鳥>
インドではディワリの時期が1年で最も消費が活発化する。にもかかわらず、ベンガルールの大型ショッピングモールにあるアップルの正規販売店を3日にのぞいてみたところ、閑古鳥が鳴いていた。
販売員は「新興スマホの特徴は、iPhoneとそっくりになってきている」と嘆いた上で、過去数カ月で販売が落ち込んでいると付け加えた。「見分けがつかなくなった以上、iPhoneの差別化を図るのは非常に難しい」という。
ベンガルールやチェンナイ近くのいくつかの販売店の担当者によると、アップルにとっては、3万7999ルピーに価格設定されているワンプラスの最新機種が大きな脅威になっている。
カウンターポイントのネイル・シャー氏は、今年のアップルの利用者ベースは10%前後減って900万人になると予想する。一方、アンドロイド搭載スマホの利用者は推定4億3600万人に上る。
同氏は「利用者ベースが縮小すれば、それだけ市場への影響力が失われる。新たな顧客層も登場していない」と話した。
(Arnab Paul、Vibhuti Sharma記者)

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