コラム:アップルの好調サービス部門、市場はリスク過小評価か
Robert Cyran
[ニューヨーク 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、同社のロゴに例えれば、あたかも「美味しいリンゴ」に2度目の「かじりつき」を楽しんでいるようだ。ティム氏が率いるこの会社は今もスマートフォンのiPhone(アイフォーン)の知名度が最も高いが、アプリや動画配信コンテンツやライセンス料は7─9月期に145億ドルを売り上げ、そうしたサービス収入は前年同月比で16%も増えた。
スマホの販売はおおむね飽和状態に近づき、今や、こうしたサービス収入の拡大が主な原動力となって、アップルの時価総額はこの2年で1兆9000億ドルに倍増した。しかし、この株価水準はリスクが過小評価されているかもしれない。
新型のアイフォーンが出ても、もはや急成長のエンジンにはならない。リフィニティブのデータによると、向こう2年の同社の増益率は年当たりでは10%前後と予想されている。2010─15年には年約30%の伸びだったのだ。
一方で、アップルの予想利益に基づく株価収益率(PER)は過去10年間、平均で14倍強にとどまっていた。今の同PERはそのほぼ2倍もある。
確かに、繰り返し発生するサービスはより安定収入をもたらすはずで、スマホやタブレット端末やコンピューターのような販売時に稼ぎが入るだけの機器類より貴重だ。
コーエンの推計によると、今後1年のアップルのサービス利益は1株当たり1.73ドルで、同社の利益全体の約40%に相当。他の事業の1株利益が2.50ドルの計算になる。過去10年の平均PERを当てはめればアップル株の価値は1株約36ドルだ。
しかし、10月28日の終値は111ドルだった。単純に考えると、この日の株価が示唆するサービス事業の価値は1株当たりでは75ドルで、コーエンが予想するサービスの利益水準に比べると、その40倍以上に買い上げられている形だ。グーグルの親会社アルファベットの場合、これは28倍で、アップルがはるかにしのぐ。グーグルもサービスを販売するし、アプリも売っている。
米司法省はグーグルを提訴している。争点の一つは、規制当局が年80億─120億ドルと主張するグーグルからアップルへの支払金だ。これにより、アイフォーンでのグーグル検索エンジンの初期設定を確保しているとされている。つまり、訴訟の動向によってはアップルのサービス利益の4分の1以上が危険にさらされる可能性があるのだ。
一方で人気ゲーム「フォートナイト」のエピック・ゲームズや音楽配信のスポティファイ・テクノロジーといったソフトウエア企業はアップルに反旗を翻し、アプリ関連の支払いでアップルがごそっと「かじり」取っている部分を巡って争っている。
投資家がアルファベットのPERを用いてアップルのサービス利益に基づく計算を始めれば、アップルの時価総額は4分の1近く、金額で5000億ドル近く減る可能性がある。ことほどさように、クック氏の帝国の株価はまるで、規制当局も競争相手も何も分捕ることに成功しないことを織り込むような水準に買い上げられているのだ。
●背景となるニュース
*アップルが28日発表した7─9月期決算は、売上高が前年同期比1%増の647億ドルだった。純利益は127億ドルで、前年同期は137億ドルだった。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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