コラム:新型コロナに乗じる中ロ、揺らぐグローバリズム
Peter Apps
[ロンドン 20日 ロイター] - 東欧のセルビアは近隣の欧州連合(EU)加盟国から国境を閉ざされ、多くの医療用品が入ってこなくなった。このためブチッチ大統領は緊急声明で「(EU加盟を目指してきた)セルビアは今、中国に目を転じている。私の個人的な全ての希望は中国と国家主席に向けられている」と述べた。
新型コロナウイルス感染拡大で世界全体がかつて経験したことない領域に入るとともに、さまざまな地政学的変化が鮮明かつ劇的に進行。セルビアの動きはその一例だ。グローバル化は止まらず人やモノは自由に移動できる、という前提は一夜にして砕け散り、大半の国は自国内部で新型コロナ感染を食い止めることだけに力を注いでいる。EUや国連といった枠組みは、新型コロナ危機対応の主役になると期待をかけられてきたが、今のところほとんど無視された存在と化してしまった。
こうした中で、いち早く国内の感染をほぼコントロールすることができたとする中国が、新たな友好国を獲得し国際的影響力を拡大するための地ならしを露骨に進めている。イタリア、フランス、スペインといった、欧州で新型コロナ感染が深刻な国に向けた医療用品や専門家の派遣も、この戦略の一部と言える。
ロシアも情勢を注視しており、同国のメディアは西側諸国の新型コロナ対応について、欠陥があり、ときに混乱の極みだとするトーンで詳細を報道することにいそしんでいる。
もちろんEU域内では加盟国間で国境が封鎖されていても、限定的ながらモノの行き来は続いており、国際的な協調態勢が機能している面があるのは間違いない。とはいえ、新型コロナのワクチン開発でさえも、国家間の協力ではなく競争と描写される様相が日々色濃くなってきた。
<危機の産物>
米中の主な英語メディアが伝えるニュースが判断の手掛かりになるとすれば、新型コロナ危機はそれ以前から対立していた両国関係を一層悪化させる要素になった。トランプ大統領が再三、新型コロナを「中国のウイルス」と呼んで中国側を激怒させているのは明らかだ。トランプ氏によると、これは中国外務省の報道官が新型コロナの発生源は米国だと示唆したことへの反撃だ。中国はその後「米国原産説」への言及をおおむね避けているが、トランプ氏は逆に中国批判を強めている。
また中国国営メディアによると、中国の戦闘機が台湾付近で威嚇飛行を行い、米海軍艦艇が南シナ海で測量を続けるなら中国側が電子兵器などで攻撃する可能性をちらつかせた。こうした強いナショナリズムの発露は各地で見られ、少なくとも新型コロナ危機がもたらした可能性がある事態の1つだろう。
世界中ではっきりしているのは、ほとんど全ての国が外界からやってくる人に対して国境を封鎖しようとしていることだ。多くの場合、新型コロナは元来あった人種差別や排外主義を助長した。同時に、そして逆説的に、セルビアなどの国は経済や基本的な人材という面でいかに外国に依存していたかをより痛切に感じる機会にもなった。
<大いなる矛盾>
これは今回の危機に由来するもっと大きな矛盾の存在を示している。ある部分では、グローバルシステムは大方が予想したよりはるかに脆弱な事実が判明した。だが別の部分は、目を見張るほどの強じんさを物語る。数億人が旅行をやめて在宅勤務に切り替えたことで経済が大きなショックを受けたにもかかわらず、食料供給や特に通信は総じて持ちこたえている。地球上の相当な部分が封鎖されていても、人々はまだ比較的落ち着いた気持ちで、互いに話ができる状態だ。
それでも足元では、グローバル化が1つの課題に直面している。この課題は規模がかつてないほど大きいだけでなく、少なくとも全世界が同時かつ均等に経験しているという面でも前例がない。一体誰が勝ち、誰が負けるのかは依然として非常に読みにくいが、その戦いが既に始まっていることだけは確かだ。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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