焦点:バングラデシュ参入で盛り上がる南アジアLNG市場

焦点:バングラデシュ参入で盛り上がる南アジアLNG市場
 8月2日、これまで長年にわたりエネルギー市場では脇役の座に甘んじていた南アジアだが、このところ液化天然ガス(LNG)市場において脚光を浴びている。写真は2月、シンガポール沿岸を航行するLNGタンカー(2017年 ロイター/Gloystein Henning)
Ruma Paul Henning Gloystein
[ダッカ/シンガポール 2日 ロイター] - これまで長年にわたりエネルギー市場では脇役の座に甘んじていた南アジアだが、このところ液化天然ガス(LNG)市場において脚光を浴びている。インドに続いてパキスタンとバングラデシュが大口消費国として台頭しつつあり、ここ数年、グローバルな供給過剰による価格低迷に悩まされてきたLNG市場に救いをもたらしているからだ。
現在、南アジアでLNGを輸入しているのはインドとパキスタンのみであり、昨年の輸入量は2国合計で2500万トン、グローバル需要の8%相当だった。
だが人口の急増と力強い経済成長、エネルギー需要の拡大に伴い、パキスタンとバングラデシュを中心に、さらに多くの輸入プロジェクトの開発が進んでいる。
「両国とも、国内ガス田による生産という伝統があるため、充実したガス関連インフラをすでに備えている」と語るのは、エネルギー専門コンサルタント会社ウッドマッケンジーでアジア地域LNG担当主任アナリストを務めるChong Zhi Xin氏。「国内生産は需要に追いついておらず、両国の市場にはLNG輸入に向かう条件が整っている」
パキスタンがようやく初のLNG輸入に踏み切ったのは2015年だが、最初のLNGターミナルを期限・予算どおりに開発したことは業界の一部に驚きをもって迎えられた。2番目のターミナルもまもなく操業開始予定であり、来年には3番目のターミナルが完成する見込みだ。
来年にはバングラデシュがLNG輸入国の仲間入りを果たす予定で、アナリストらは、2020年代半ばまでに南アジア地域のLNG輸入量は年間8000万~1億トンに達し、地域別の輸入量としては欧州を抜いて世界第2位となるする可能性があると話している。
<活況を呈するバングラデシュ>
人口1億6000万人のバングラデシュでエネルギー・電力担当大臣を務めるナスルル・ハミド氏によれば、同国の輸入量は2025年までに、年換算で最大約1750万トンに達する可能性があるという。
国内のガス埋蔵量は枯渇しつつあり、2021年までに発電容量を現在のほぼ2倍にあたる2万4000メガワット(MW)に拡大する目標を掲げるなかで、バングラデシュは国際市場に低価格かつ潤沢に供給されるLNGに目をつけ、巨額の関連投資を進めている。
2018年以降、米国の民間企業エクセラレート・エナジーによって最初に開発された浮体式貯蔵気化設備(FSRU)を複数基使ってLNGカーゴの輸入が開始される予定になっている。
ハミド氏はロイターの取材に対し、「2基のFSRUを準備しており、来年7月までにはガスの供給を開始する予定だ」と語った。
このFSRUは2基ともバングラデシュ南東部にあるベンガル湾のモヘシュカリ島沖合で運用される予定である。処理能力は合計で年間750万トンである。
さらに2基のFSRUが計画されているが、スケジュールはまだ確定されていない。
さらに石油ガス公社ペトロバングラは12月、インドのペトロネットとのあいだで、年間750万トンの再ガス化能力を持つ陸上ターミナルを建設するための予備契約を結んだ。場所はモヘシュカリ島のすぐ北に位置するクトゥブディア島、総工費は9億5000万ドルとされる。
「国内需要しだいではあるが、2025年までには、2000~2500百万立法フィート日(mmcfd)のガスを輸入することになるだろう」とハミド氏は言う。
こうしたバングラデシュによる輸入の他、インドとパキスタンは、2020年代半ばまでに、それぞれ年間5000万トンと3000万トンのLNGを購入する計画を立てている。
エネルギー産業を専門とするコンサルタント会社ギャルウェイ・グループでアジア太平洋事業開発部門を率いるMangesh Patankar氏は、「南アジアにおけるLNG輸入は、2016年の年間2200万トンから、2030年までには4倍の8000万トンに膨らむと予想されている」と語る。
業界の予測データによれば、この地域での計画がすべて実現し、スリランカも輸入を開始すれば、輸入量は年間1億トンにまで上昇する可能性があるという。
こうなると、北アジアの輸入量である年間1億5000万トンには及ばないとはいえ、南アジアは2020年までに欧州を抜いて世界第2位のLNG輸入地域となる。
需要ブームはLNG市場における供給過剰の緩和に貢献するだろう。供給過剰のせいで、LNG価格は2014年のピーク時から70%以上も下落し、100万英サーマルユニット(BTU)当たり5.75ドルとなっている。
<進む供給交渉>
ハミド・エネルギー電力担当相によれば、バングラデシュは長期契約に向けてカタールのラスガス及びインドネシアのプルタミナと交渉を進めているという。その一方で、今後の需要のかなりの部分については、随時取引が可能なスポット市場で輸入することも計画している。
「長期契約とスポット市場双方をミックスしていきたいと考えている」とハミド氏は言う。
ペトロバングラの1部門であるルパンタリタ・プラクリティック・ガスは6月、2018年以降のスポットカーゴについて、LNG供給元を求める通告を出した。
もっとも、LNGに関するバングラデシュ、パキスタン両国の野心的な計画の実現を誰もが信じているわけではない。
「あまりにも野心的な目標と言えるかもしれない。中国のLNG輸入が2000万トンに達するのに10年以上かかっている。インドでは同じ量に達するのに13年かかった」と語るのは前出のChong Zhi Xin氏。
Chong氏によれば、バングラデシュ、パキスタンでは国内の天然ガス価格が安いため、輸入LNGには補助金が必要になるという。
「LNG輸入が増えていけば、それにつれて補助金の額も膨れあがる。価格改革が行われなければ、パキスタン、バングラデシュがLNG輸入目標を達成するのは困難になるだろう」
しかしハミド・エネルギー電力担当相は自信に溢れている。彼が言うには、急増する需要への対応という意味では、輸入LNGはもっと大きな計画の一部でしかないという。
「対応策としては、FSRUと地上ベースのLNG基地だけでなく、ベンガル湾の深海ガス田開発、そして多国間ガスグリッドがある」と彼は言う。
(翻訳:エァクレーレン)

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