コラム:火を噴く豪州の森林、炭素税巡る世論の転換点なるか

コラム:火を噴く豪州の森林、炭素税巡る世論の転換点なるか
1月13日、オーストラリアの森林火災をきっかけに、気候変動を巡る同国の政治環境は転換点に達しそうだ。写真は4日、ビクトリア州の上空で住民の救助活動を行う豪軍兵。豪国防省提供(2020年 ロイター)
Ed Cropley
[ロンドン 13日 ロイター BREAKINGVIEWS] - オーストラリアの森林火災をきっかけに、気候変動を巡る同国の政治環境は転換点に達しそうだ。温暖化への懐疑派であるモリソン首相は、二酸化炭素(CO2)排出量を厳しく削減すれば代償を伴うと言うが、28人のオーストラリア人が死亡し、英国土の半分近い面積が燃えた今、手をこまねいていれば政治的な代償も高まる一方だろう。
政治的に見て、オーストラリアは気候変動問題における「炭鉱のカナリア」だ。1人当たりCO2排出量は米国に次ぎ世界で2番目に多い上、石炭と液化天然ガス(LNG)の主要輸出国だ。一方で異常気象は一段と悪化しており、3年連続の干ばつと過去10年間で最高の気温を記録したことが相まって、森林がまるで火を噴いた状態だ。
渦を巻いて燃え上がる炎、暗いオレンジ色に染まった空など、黙示録さながらの写真を見れば、オーストラリア国民がモリソン氏の姿勢を疑問視するのは無理もない。
2012年に炭素税をいったん導入し、14年に廃止した経験に照らせば、炭素税は効力を持ちそうだ。炭素税からインセンティブに基づく制度に切り替えて以来、同国のCO2排出量はじりじりと増加しているからだ。
オーストラリアは気候変動対策の後進国から先進国に転じるべきだとの考えに基づき、モリソン氏が姿勢を転換、排出量の多いカンタス航空などに炭素税を課したと想像しよう。
カンタスは昨年、CO2を1240万トン排出している。CO2価格を欧州の取引価格、1トン=26ドルと想定すると、同社の純利益は4億7000万豪ドル(3億2200万米ドル)減少するだろう。
これは昨年の純利益の半分強だ。同社の株価収益率(PER)は12倍なので、株式時価総額が60億豪ドル吹き飛ぶ計算となる。CO2の価格が上がれば、打撃はさらに大きくなる。
しかし、無為無策の代償も急速に高まっている。森林火災は収まっておらず、既に損害保険の請求額は7億豪ドルを超えたとみられる。モリソン首相は、森林火災の影響を受けた地域の復興に20億豪ドルの予算を確保すると約束した。
バンク・オブ・アメリカの試算では、消費者心理の落ち込みと観光客の減少により、四半期の経済成長率は0.4%ポイント押し下げられる可能性がある。
企業家精神に富んだ政治家がその気になれば、炭素税を売り込む方法はいくらでもあるだろう。税収が増えれば、法人税など別の税金を減らす余裕が生まれる。カンタス航空も運賃を上げることになりそうだから、投資家が全ての痛みを引き受けることにはならない。投資家の半分はオーストラリア人ではないのだし。
そうなると唯一の問題は、同国の「世論」だ。だが、国が火災で燃えている今となっては、モリソン氏は自分が間違った側にいることに気付くのではないだろうか。
●背景となるニュース
*未曽有の森林火災により、昨年9月以降にオーストラリア人28人が死亡し、森林1120万ヘクタールが消失。気候変動に対するモリソン首相の姿勢に批判が高まっている。
*13日公表の世論調査によると、首相の支持率は1カ月前に比べ8%ポイント下がって37%と、2018年8月の就任以来で最低となった。
*科学者は温暖化が森林火災の一因だとしているが、モリソン政権は関連性を否定。
*森林火災で自宅を失った俳優、ラッセル・クロウ氏などの著名人が批判の急先鋒。クロウ氏は6日、米ゴールデン・グローブ賞の受賞スピーチで「間違ってはいけない。オーストラリアを見舞った悲劇は、気候変動に原因がある」と訴えた。
*オーストラリア政府は、CO2排出量をさらに削減すれば経済に打撃が及ぶとしている。
*ロイターが7日報じたところでは、オーストラリア保険評議会は、森林火災関連の損害保険請求がこれまでに7億豪ドルに達したと推計している。首相は6日、復興予算20億豪ドルの確保を約束した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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