コラム:鉄鉱石が複雑にするオーストラリア経済再生
Clara Ferreira-Marques
[シンガポール 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - オーストラリア最大の輸出品目である鉄鉱石が、1兆3000億ドルの規模の同国経済を再生させる取り組みを複雑にしている。鉄鉱石の価格上昇は鉱業部門への大幅な投資拡大や、賃金上昇にはまだつながっていない。
しかし、貿易摩擦や利下げに対する豪ドルの一段の底堅さにつながっており、10年ぶりの低いペースで推移する豪経済の成長促進をより困難にしている。
鉄鉱石価格は2019年の大半で上昇し、指標となる現物価格は5年ぶりに1トン当たり100ドル前後で推移している。その結果、オーストラリアの貿易黒字は季節調整済みで1年前に比べてほぼ5倍になった。しかし、恩恵を受けているのは経済のほんの一部だけで、豪ドルがショックの緩衝材として機能するのを妨げている。
1983年に変動相場制に移行して以来、豪ドルは景気減速局面には軟化する傾向を示してきた。これは輸出業者、特に鉱山会社にとっては良いことだ。しかし、鉱山大手は支出を抑制するよう求める投資家からの圧力を依然として受けている。過去の巨額投資後、大規模な新規プロジェクトは広がらず、賃金も好況期のようには上昇していない。鉄鉱石から恩恵を受けるのは株主の可能性が最も高い。
実際、価格上昇の恩恵を受ける企業はより多くの税金を払うことになる。しかし、このことはまだ政府に大幅な支出拡大を促しておらず、連立与党は2007年以来の財政黒字化を約束した。結果、景気支援に関してはオーストラリア準備銀行(中央銀行、RBA)が重労働を担っている。
同中銀は先週、3年ぶりに政策金利を引き下げた。しかし、新興国市場の底堅さや、鉄鉱石価格の上昇、予想を下回る米経済指標を背景に豪ドルの対米ドル相場は週間で上昇した。
鉄鉱石価格は十分な需要を踏まえても、供給の回復に伴い下落する可能性がある。豪ドルは2011年の高値よりも、最近の安値に近い水準だ。しかし、景気を刺激するには豪中銀はさらなる利下げを余儀なくされるリスクがある。
●背景となるニュース
・第1・四半期の豪実質国内総生産(GDP)は前期比0.4%増と、市場予想の0.5%増を下回った。前年比の伸び率は1.8%と、長期平均の3.5%を大きく下回り、世界的な金融危機後の最低水準に落ち込んだ。
・豪中銀は6月4日、政策金利のオフィシャルキャッシュレートを25ベーシスポイント(bp)引き下げ、過去最低の1.25%とすることを決定した。[nL4N23B13B]
・中国の大連取引所の鉄鉱石先物は年初来約50%上昇。5月には1トン=874元(126ドル)と約2年ぶりの高値を付けた。6月11日は1トン=760.5元(110ドル)。スティールホームのデータによると、中国の港湾における輸入鉄鉱石在庫は2年半ぶりの低水準。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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