コラム:菅新首相のデジタル改革、ウォーバーグ・ピンカスに福音

コラム:菅新首相のデジタル改革、ウォーバーグ・ピンカスに福音
 日本における菅義偉新政権誕生で大きな利益を得そうな企業がある。投資会社ウォーバーグ・ピンカスだ。写真はNECのロゴ。2016年10月、幕張メッセで開催されたイベントで撮影(2020年 ロイター/Toru Hanai)
Pete Sweeney
[香港 5日 ロイター] - 日本における菅義偉新政権誕生で大きな利益を得そうな企業がある。投資会社ウォーバーグ・ピンカスだ。
その理由は、大手テクノロジー企業NEC<6701.T>によるスイスの金融テクノロジー企業アバロクの買収。ウォーバーグなどは同社を22億ドルでNECに売却する予定。アバロクの成長ペースが鈍いことを考えれば安い買い物ではないが、このタイミングでの買収で、NEC側が手にする価値が高まる可能性はある。
ウォーバーグは2017年、銀行・資産運用会社を対象にしたソフトウェア・サービスを提供するアバロクの株式を45%まで積み増した。当時、その価値は約10億ドル(約1057億円)と評価されていた。今回の件がまとまれば、買収対象は2倍以上の評価を得ることになる。レバレッジゆえに、ウォーバーグにとってのリターンはさらに拡大する。これは同社にとって大きな成果だ。
株式非公開のアバロクの成長は、ここ数年パッとしなかった。2019年、売上高成長率はわずか6%、利払い・税・償却前損益(EBITDA)ベースの利益率は約16%だった。銀行や資産運用会社、規制当局が業務の合理化・デジタル化を急ぐなかで活況を呈している業界としては、これは残念な結果である。たとえばライバルのテメノス(本社ジュネーブ)の2020年上半期の売上高成長率は15%で、利益率も上回っている。だがNECは、直近の調整後EBITDAの21倍の評価を与えた。EBITDAの24倍で株式が取引されているテメノスをわずかに下回るだけで、やはりライバルでNASDAQに上場しているフィザーブの15倍を大きく上回っている。
だが、それでも今回の買収はNECにとってプラスになる可能性がある。売上高成長の鈍さと低い利益率は、1つにはウォーバーグがアバロクに対し、同社のソフトウェアをサービスとして販売するよう事業内容を転換することを求めていたからでもある。だがNECであれば、アバロクの提供するサービスをアジア、そして特に日本における販売網に統合することにより、事業指標を改善することができるはずだ。
国内での展開は特に重要になるだろう。就任したばかりの菅首相は、あいかわらず大量の紙幣とファクスを利用している旧式の国内金融・規制システムを劇的に変革したいと考えている。これは大きなビジネスチャンスだ。日本の銀行の一部がひどく時代遅れであることを思えば、業務のデジタル化は、効率向上による大幅なコスト削減と、タイトな労働市場の緩和につながるだろう。NECでは、アバロクのテクノロジーを公共サービスの提供にも応用できる可能性を重く見ている。これで利益を上げることができれば、タイミングの良い今回の買収は、さほど割高なものには思えなくなるだろう。
●背景となるニュース
*NECは10月5日、スイスの金融ソフトウェア企業アバロクを、アバロク創業者及び従業員、株式の45%を保有する投資会社ウォーバーグ・ピンカスから、20億5000万スイスフラン(22億3000万ドル)で買収すると発表した。
*スイスに本社を置くアバロクは、銀行向けのデジタル・ソリューション、中核ソフトウェア、資産運用テクノロジーを専門としている。また銀行・資産運用会社向けのクラウド・コンピューティグ・ソリューションも提供している。
*NEC株は5日、2.48%上昇の6200円で取引を終えた。

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