コラム:大台突破で危うさ増すビットコイン

Edward Hadas
[ロンドン 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 仮想通貨ビットコインが、何やら一目置かれる存在になる恐れが出てきた。米CMEグループはビットコインを純粋な資産として扱うつもりらしく、先物の導入を計画している。信者は大喜びし、私のような批判派はまるで大間抜けだ。
何を隠そう私は2013年、ビットコインが87ドルの時に今にも暴落すると予言したが、価格は今月29日に1万ドルを突破した。
われわれ懐疑派は降参するか、なおも抵抗するかの選択を迫られている。しかし私は後者を選ぶ。ビットコインその他のデジタル仮想通貨には、経済的、社会的、そして文化的に見て致命的な欠陥が多すぎる。
ブロックチェーン(分散型台帳)技術の穴や、「マイニング(採掘)」に要する多大なエネルギーも気掛かりだが、経済面での大きな弱点はそこではない。
もっと根本的な矛盾がある。ビットコインを通貨として見た場合、信者が訴えるような2つの強みを兼ね備えることは、はなから不可能なのだ。ビットコインが値上がりが期待できる収集品だとするならば、法定通貨の魅力的な代替物とはなり得ないのである。
所有者が値上がりを期待している限り、ビットコインの価格は上がり続けるだろう。しかし相場が暗転した暁に、合法的な商店はどこもビットコインなど受け付けなくなる。なぜなら伝統的な通貨という素晴らしい代替物があるからだ。
ビットコインの所有者が、通貨としての機能を大真面目に考えているのであれば、3カ月間で価格が倍に跳ね上がったことにがっかりしたはずだ。これほど乱高下するようでは、今後何年間も相場が安定しない限り、商店はまともな通貨として見てくれないだろう。
もう1つの致命的な問題は、信用できないことだ。お互いを信じていないコンピューターのオタク達が四六時中、数式をいじくり回している姿からは、どうも信頼感が沸き上がってこない。
繰り変えすようだが、政府を後ろ盾とした通貨の方がよほど頼りになる。ハイパーインフレが起こることは極めてまれだし、世界金融危機の際でさえ、普通の人の預金はほぼ損失を免れた。
仮想通貨信者の目を曇らせ、経済の現実を見えなくさせているのが、リバタリアニズム(自由至上主義)だ。無政府主義者らは、民間の通貨が一時的に問題を抱えるとしても、それは国家による通貨支配というくびきから社会を解き放つためなら、耐え忍ぶ価値がある代償だと信じている。
これは犯罪者にとって都合の良い主張だ。ビットコインが違法行為の定番手段となっているのは偶然ではない。規制されていない電子通貨は、法定通貨より振り替えのコストが高く不安定でもあるが、逮捕されるリスクは小さい。
それでも信者はへこたれない。信者の言い分は「こんなに良いアイデアなのだから、うまくいくはず」などとむなしいだけでなく、しばしば終末論的な様相も帯びる。腐敗し、激しく2極化した世界の終りは近づいており、終末の時に選ばれる通貨こそがビットコイン(あるいはイーサリアムなど)だ、というのだ。仮想通貨にはルールも規約もあるので、政府も法律も必要ない──。
ばかげた主張だ。
ビットコインを動かすのに必要なインターネットもクラウドも、いやコンピューター・ネットワーク全体が機能しているのは、そこそこ実効力のある政府が背後にあるからだ。無政府状態が訪れるとすれば、コンピューター上の記録、特にブロックチェーンのようにひときわ複雑なシステムは、完全に使えなくなるだろう。
これほど明白な問題があるのに熱狂が冷めないのは、何か不合理な力が働いているのだろう。1つの可能性として、ビットコインはポストモダン時代の高級品と化したのかもしれない。ほとんどの高級品と違い、美しくも、楽しくも、自然界における希少性も備えていないが。ビットコインがもたらしてくれるのは、自ら創造した価値という、奇妙で退廃的な魅力だ。
いや、もっと単純に説明できる。欲に目がくらんで判断がゆがむという、おなじみのパターンだ。ビットコイン信者が語るブロックチェーンや政府の危険さ、終末論などは、儲けたいという欲望を覆い隠すための薄っぺらな知的武装にすぎない。
今のところ、ビットコインはそうした投機家の望みをかなえてくれている。ただ、バブルは膨らめば膨らむほど、破裂した時の打撃が深刻になることを忘れてはならない。
●背景となるニュース
・ビットコインは29日、ビットスタンプなどの取引所で初めて1万ドルを突破した。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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