コラム:課題山積、英中銀次期総裁に必要なのは「魔法の力」

コラム:課題山積、英中銀次期総裁に必要なのは「魔法の力」
12月16日、あなたは魔法を信じますか――。イングランド銀行(BOE、英中央銀行)のカーニー総裁の後継者にだれが選ばれるにせよ、真っ先に聞くべきはこの質問かもしれない。ロンドンのBOE前で2017年12月撮影(2019年 ロイター/Clodagh Kilcoyne)
Edward Hadas
[ロンドン 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - あなたは魔法を信じますか――。イングランド銀行(BOE、英中央銀行)のカーニー総裁の後継者にだれが選ばれるにせよ、真っ先に聞くべきはこの質問かもしれない。総選挙で勝利したジョンソン英政権は、数日中に後継者を指名する見通しだ。多くの候補者名が上がっているが、明確な有力候補は存在しない。
英国が欧州連合(EU)から無秩序に離脱すれば経済に打撃が及び、金融政策に試練が訪れるという、だれもが抱く懸念をずばりと指摘したカーニー氏を、これまでの政権は評価しなかった。次期総裁になっても厳しい環境は変わらないかもしれない。
すべてが順調に進んだとしても、次期総裁は執拗な低インフレ、信用の膨張、気候変動といった先進国世界が直面する課題と向き合うことになる。その上ブレグジット(英国のEU離脱)が良くない方向に進めば、これに対処する次期総裁は超自然的な才能を必要とするだろう。
英予算責任局(OBR)が16日公表した報告書によると、政府は3年以内に財政を均衡させるという約束を早くも破ろうとしている。平常時であれば、これは心配いらない。過去10年間の世界各国の経験則に照らせば、経済が余剰生産能力を抱えている限り、政府は大いに財政支出を拡大することが可能だからだ。
しかしEU諸国との貿易減少によって経済の潜在力はさらに下がり、いくら財政支出を増やしても対抗できなくなるかもしれない。たとえ景気後退時であっても効果のない巨額の財政支出を行えば、インフレという幽霊を長い眠りからたたき起こす恐れがある。
そしてポンドの問題だ。英国の経常収支赤字は直近が国内総生産(GDP)比4.6%で、今までは簡単に穴埋めできていた。これは英国の巨大な金融センターへの資金流入に追うところが大きい。ブレグジットに伴い銀行が英国からEUに資産を移す決断をすれば、資金の流れは方向転換しかねない。
魔女の秘薬の現実版が、容易に思い浮かぶ。資本フローがポンドを暴落させ、かたや景気後退にインフレが加わる。次期総裁は通貨危機を避けようと利上げを望むが、そこで最後の幽霊が登場する。政治による干渉だ。そして歴史を振り返ると、懸念に囚われ憤慨した政治家をかわせる呪文は、まだどのセントラルバンカーも発見していない。
●背景となるニュース
*カーニーBOE総裁の2期目の任期が1月31日に終わる。総選挙で勝ったジョンソン政権が間もなく後継者を指名する見通し。
*英紙フィナンシャル・タイムズによると、候補者には英金融行動監視機構(FCA)のアンドルー・ベイリー長官、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのミノーシュ・シャフィク理事、ケビン・ウォーシュ元米連邦準備理事会(FRB)理事らの名が挙がっている。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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