コラム:英中銀総裁、債券買い入れ拡大以外に手はあるか
Swaha Pattanaik
[ロンドン 7日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 債券投資家は、イングランド銀行(英中央銀行、BOE)のベイリー総裁を当てにしても大丈夫だ。BOEは7日、政策金利を据え置いたものの、ベイリー氏は英経済の先行きに悲観的なため、現在国債利回りを抑え続けている債券買い入れプログラムを近く拡大せざるを得なくなる。
ベイリー氏の見立てでは、今年は英国内総生産(GDP)成長率がマイナス14%になる。これは社会的距離を確保する措置が6月上旬まで実施され、第3・四半期末までに順次巻き戻される場合に想定されるシナリオに基づいている。これほどの経済収縮は、BOEも過去3世紀余りの歴史で目にしたことがない。また来年、GDP成長率が急回復したとしても、新型コロナウイルス感染の大流行前の水準に戻るのは来年後半以降というのがBOEの予想だ。
当然ながら、ロックダウン(封鎖)の解除が再び死者を急増させ、より厳格な行動制限が復活するようなら、経済活動の復活にはより長い時間がかかる。あるいは家計と企業が、新型コロナがもたらす経済的ショックに対してBOEの想定よりも強い恐怖を感じるかもしれない。いずれにせよ特異な健康危機のまっただ中にある以上、正確な経済見通しをひねり出すのは難しい。
たとえ事態がBOEの予想通りになったとしても、英経済は得られる支援なら全て受け入れることが必要になるだろう。BOEは、過去最低の政策金利をマイナスにすることに消極的なので、今後景気刺激の手段を量的緩和に頼るしかない。現在の債券買い入れペースを維持すると、7月初めには購入枠の限度に達するが、そこで買い入れをやめるという道はない。
BOEが生み出す国債の追加需要は、新型コロナ対策の財源となる政府の大規模な国債増発の影響を中和する役割を演じつつある。英債務管理庁(DMO)が5-7月に予定している国債発行の規模は1800億ポンドと、当初2020/21年度全体で計画されていたよりも多くなった。その結果、ベイリー氏が債券買い入れを止めれば、借り入れコストの指標となる国債利回りが高騰するのは必至で、それはベイリー氏にとって、もしくはジョンソン首相にとっても一番望ましくない出来事だ。
ベイリー氏が買い入れを停止する理由も全く見当たらない。BOEのシナリオでは、物価上昇率は年末までにゼロ付近まで下振れ、今年平均も0.6%にとどまる。つまりBOEが目標とする2%からは程遠い。ベイリー氏は何のためらいもなく、債券買い入れを遂行できる。
●背景となるニュース
*BOEは7日、金融政策委員会が全会一致で政策金利を0.1%に据え置くことを決めたと発表した。
*2000億ポンドの債券買い入れについては、7対2で維持を決定。2人の委員は買い入れ規模を1000億ポンド増額するよう提案した。
*BOEは、経済見通しには異例なほどの不確実性が伴うとしながらも、新型コロナ対策としての社会的距離確保のための措置と政府の各種支援策が6月上旬まで続き、その後第3・四半期末までに順次巻き戻されるという条件で、想定されるシナリオを提示。これに基づくと、今年の英GDP成長率はマイナス14%、来年はプラス15%が予想される。新型コロナ大流行前の水準に戻るのは来年後半以降だという。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
Opinions expressed are those of the author. They do not reflect the views of Reuters News, which, under the Trust Principles, is committed to integrity, independence, and freedom from bias.