アングル:超長期金利上昇を日銀は静観、必要なら「オペ紙」レンジ突破も

アングル:超長期金利上昇を日銀は静観、必要なら「オペ紙」レンジ突破も
 7月8日、超長期金利の上昇に対し、日銀は今のところ静観の構えを見せている。イールドカーブ・コントロール(YCC)上、現在の水準は許容範囲との見方だ。しかし、巨額の国債発行が続く中ではいつ超長期金利が急上昇してもおかしくない。写真は2016年9月に東京の日銀前で撮影(2020年 ロイター/Toru Hanai)
和田崇彦 伊賀大記
[東京 8日 ロイター] - 超長期金利の上昇に対し、日銀は今のところ静観の構えを見せている。イールドカーブ・コントロール(YCC)上、現在の水準は許容範囲との見方だ。しかし、巨額の国債発行が続く中ではいつ超長期金利が急上昇してもおかしくない。市場が不安定化するような局面では、必要性に応じて月間の買い入れ予定で示しているオファー額のレンジを超えるオペが実施される可能性もある。
<市場に委ねる姿勢継続>
新発20年債利回りは7月に入り節目の0.4%を大きく超えて上昇、2019年3月以来の水準となっているが、日銀内では、超長期金利はある程度柔軟に動くことも許容するとしてこれを大きく問題視する向きは少ない。   
理由の一つは、政策ターゲットの10年金利がほとんど動いていないことだとみられる。一時0.055%まで上昇したものの足元は0.03%台で、許容レンジとされる0.2%までは距離がある。   
また、超長期金利が10年金利と整合的ではない水準まで上昇しているわけでもない。10年と30年の利回りのスプレッドは19年9月以来の水準に拡大しているが、YCC政策導入(16年9月)後のピークだった17年と比較すればまだ7割程度だ。  
YCCのターゲットは短期金利のマイナス0.1%と長期金利の「ゼロ%程度」で、10年金利の誘導目標にも一定の幅を持たせている。超長期ゾーンはなるべく市場動向に委ねたいというのが16年の総括検証以降のスタンスであり、現在もその姿勢に大きな変更はないというのが日銀内での主流な考え方だ。
<背景に分厚い投資家需要>
実際、超長期債には国内投資家の分厚い需要がある。  
日本証券業協会のデータによると、生損保は昨年、超長期債を3兆8811億円、月平均で3234億円買い越した。月によって多少の変動はあるが、ここ1年、売り越したことはなく、コンスタントに買い続けている。
マイナス金利の世界では、プラス金利の債券は貴重だ。7日の30年債入札は今回から2000億円増額され9000億円の発行となったが、結果は順調だった。日銀はオペでの超長期債の買い入れ額を依然据え置いており入札前は需給懸念も強かったものの、最終投資家の厚い需要に支えられていることが改めて示された。
超長期ゾーンには安定的な投資家層が存在することもあり、価格形成は市場に委ねてほしい――日銀が6月に開いた債券市場参加者会合では、マーケット側の出席者からこうした声が上がっている。
しかし、市場で消化される国債の発行額(カレンダーベースの市中発行額)は20年度第2次補正予算後で当初予算比で83.5兆円増の212.3兆円に膨らんだ。2年以上の利付国債だけで毎月10兆円を超える発行がある。市場では「このペースの発行が続けば、超長期金利は徐々に上昇していく」(国内証券)との声も根強い。  
アライアンス・バーンスタインの債券運用調査部長、駱正彦氏は「海外勢にとって、為替スワップを含めた比較でみると日本国債よりも米国債の方が魅力的だ。国内勢も長期投資家には大きな期待はできない。超長期金利は入札ごとに徐々に上がっていくのではないか」と話している。
<オペ紙のレンジはあくまで「目安」>
超長期金利が急上昇するような局面が到来した場合、日銀がどこで抑制に動くのかを市場が「試しにいく」可能性もある。黒田東彦総裁が6月の会見で述べた「イールドカーブ全体を低位で安定させる」ことの重要性と、総括検証以降の「超長期金利の過度の低下は望ましくない」との姿勢をどう両立させるのかをまだ見極められていないためだ。   
日銀内では「どちらも大事」として、両者は必ずしも矛盾しないとの見方が出ている。特定の金利水準を意識して買い入れ額を調整するのではなく、あくまで需給動向や金利形成の要因、相場変動のスピードなどを総合的に勘案する構えだ。
しかし、国債入札が不調で金利が急上昇したり、相場が不安定になり市場参加者が買いの手を引いて急速な金利上昇が続くようなことがあれば、日銀は市場安定化のために金利上昇の抑制に動く可能性も高い。
日銀の7月の国債買い入れ計画では「残存10年超25年以下」の1回当たりオファー金額のレンジは500―2000億円。直近ではほぼ中央値の1200億円でのオファーが続いているが、日銀内では、レンジ内で額を増やすことで金利上昇に対応可能との見方が出ている。   
さらに日銀内では、必要とあればレンジの上限を上回って買い入れる可能性も排除しないとの見方も聞かれる。毎月末に発表される国債の買い入れ予定(オペ紙)には、脚注にオファー額のレンジは「目安」と注記されている。絶対にレンジを超えないというわけではない──。超長期金利の上昇を静観しながらも、警戒感を緩めている様子は日銀内ではまだみられない。

和田崇彦、伊賀大記 取材協力:木原麗花 グラフ作成・編集:田中志保

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