アングル:政府・日銀連携の「立役者」菅氏、追加策要請も

アングル:政府・日銀連携の「立役者」菅氏、追加策要請も
9月2日、安倍晋三首相の後継を決める自民総裁選で優勢が伝えられる菅義偉官房長官は、日銀に対してどのようなスタンスで臨むのかが1つの注目点だ。写真は、都内で記者会見し、総裁選への立候補を表明する菅氏(2020年 ロイター/Issei Kato)
和田崇彦
[東京 2日 ロイター] - 安倍晋三首相の後継を決める自民総裁選で優勢が伝えられる菅義偉官房長官は、日銀に対してどのようなスタンスで臨むのかが1つの注目点だ。安倍政権で菅氏は政府・日銀連携の「立役者」とも言える存在だった。菅氏が次期首相になれば、前政権に続き政府・日銀一体でコロナ対応を進めていくとの見方が当局者の間では目立つ。ただ、官房長官時代に発揮した強いリーダーシップもそのままに、経済や金融市場の動向次第で日銀に追加対策の圧力をかける可能性も否定できない。
菅氏は2016年、財務省・金融庁・日銀が国際金融市場の動向について情報交換する三者会合を立ち上げた。安倍政権の下で株高・円安が大幅に進み、それがアベノミクスの「レガシーの1つ」(エコノミスト)になったことで、菅氏は市場動向に敏感だった。三者会合を立ち上げ、円高に振れた場合は当局のメッセージを市場にいち早く発信する仕組みを作った。菅氏は8月のロイターのインタビューで「(三者会合は)日本の国が何を考えているか、分かりやすいメッセージを出せるという意味で有効だ」と述べた。
<政府・日銀の一体感>
大胆な金融緩和・機動的な財政政策・成長戦略の「三本の矢」からなるアベノミクスの下で政府と日銀は連携してきたが、新型コロナウイルスの感染拡大への政策対応で信頼感は一層深まった、と関係者は話す。コロナで打撃を受けた事業者の資金繰りを支援するため、政府が補正予算で財政措置を盛り込み、日銀は金融機関向けの資金供給策を打ち出した。国債発行増などを踏まえ、日銀は4月に国債の購入上限も撤廃した。
5月には麻生太郎財務相と黒田日銀総裁が共同談話を発表。2人が並んで会見に臨む姿は、政府と日銀が一体で難局に臨む姿勢を印象付けた。
次の政権に交代しても、政府・日銀が連携して政策対応するという基本構造は変わらないと複数の関係者は話す。デフレ脱却に向けた金融政策運営のために就任した黒田東彦日銀総裁が続投との見方も優勢だ。
関係者は、菅氏は日銀の金融政策に深い理解があると話している。また、菅氏が首相になれば「まずはコロナ対策や携帯電話の料金値下げなど菅氏の看板政策が前面に出るだろう。第2次安倍政権の発足当初のような金融政策がまず第一、という雰囲気ではなくなるのではないか」(経済官庁関係者)との見方もある。
<続くコロナ禍、残るリスク>
自民党総裁選でアベノミクスの功罪について冷静な議論が展開され、次期政権の経済政策につながるとの期待感が、当局者からは聞かれる。
一方、コロナの感染拡大が終息しない中、次期政権の最優先課題はコロナ対応で、感染状況により、日本経済や金融市場が大きく揺さぶられるリスクもくすぶり続ける。
日経平均株価は8月28日、安倍首相の辞任意向報道のあと急落したが、31日にはアベノミクスの継続期待で反発するなど市場は神経質な動きをみせている。追加の経済対策を巡っては、税収の落ち込みなどもあり、エコノミストからは「政府は第3次、第4次の補正予算を組まざるを得ない」との声も出ている。
菅氏はロイターとのインタビューで「日銀とは早め早めに連携している。やはり連携してやることはものすごく大事だと思う」と述べ、政府・日銀の連携の重要性を強調した。
菅氏は官房長官として霞が関の幹部人事を掌握し、政権の重要テーマににらみを利かせてきた。それだけに、菅氏の首相としての動向に警戒感も出ている。

和田崇彦 取材協力:木原麗花、梶本哲史、竹本能文、山口貴也 編集:青山敦子

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