コラム:アップルの根幹揺るがす欧州委、巨大ITに本気でメス

コラム:アップルの根幹揺るがす欧州委、巨大ITに本気でメスs
米巨大IT企業の株を保有する投資家はこれまでずっと、欧州委員会で競争政策を担当するベステアー氏(写真)の脅威を重視してこなかった。2017年10月、ベルギーのブリュッセルで撮影(2020年 ロイター/Francois Lenoir)
Liam Proud Robert Cyran
[ロンドン/ニューヨーク 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米巨大IT企業の株を保有する投資家はこれまでずっと、欧州委員会で競争政策を担当するベステアー氏の脅威を重視してこなかった。
欧州連合(EU)欧州委員会のべステア―執行副委員長(欧州デジタル化総括、競争政策担当)は、デジタル市場における米巨大ITの支配力を弱めたがっている。2014年に彼女が欧州委員に就任して以来、いわゆるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの4社)の合計時価総額は3倍強増えて4兆4000億ドルに膨らんできた。
欧州委が16日、アップルに対し新たな2件の調査を開始したことは、ベステアー氏の動きをもっと深刻に受け止めるべき時期がやってきたことを物語る。
ベステアー氏は、iPhone(アイフォーン)のアプリ販売市場「アップストア」の優位的な地位が、競争をゆがめているのではないかと懸念している。ライバルの音楽配信サービス、スポティファイ・テクノロジーが寄せた苦情によると、アップルはアプリ開発業者から30%の販売手数料を徴収するとともに、アップストア以外でより安くアプリを販売することを事実上禁止している。
これとは別に、アップルの決済サービス、アップルペイについてベステアー氏は、これと競合する決済システムがアップルの人気スマホ上で円滑に作動するのをアップルが妨害している可能性を疑っている。
アップルは「(同社のシステムに)ただ乗りしたいだけの一握りの企業からの根拠なき申し立てを取り上げている」と、欧州委への失望を表明した。
だがアップルのクック最高経営責任者(CEO)と投資家は、身構えておくべきだ。スマホ端末市場は飽和状態に達しており、収入のおよそ半分をアイフォーンに依存するアップルにとってこれは問題だ。
今年1-3月のアイフォーンの販売台数は7%減少した。アップルはその穴をアプリ販売のほか、ゲームや音楽配信の定額サービスで埋めている。こうしたサービスは急成長し、収入の25%に迫る勢いだ。
シティのアナリストチームは、アップストアの売上高は、サービス収入全体の30%を占めるとみている。
サービス事業の拡大を受け、市場はアップル株を再評価することに納得している。投資家は売り切って終わるハードの販売よりも、繰り返し発生するサービス収入を評価するからだ。
リフィニティブのデータによると、アップルの向こう12カ月の予想利益に基づく株価収益率(PER)は24倍と、2015年から18年末までの2倍近くに達している。
だから欧州委がアップストアの手数料引き下げを強制したり、アップルペイと競合するシステムを後押しすれば、アップルの売上高の伸びは鈍化し、恐らくPERが下がって、1兆5000億ドル規模の時価総額が脅かされることになる。
つまりベステアー氏は、本気で米巨大ITにメスを入れようとしているということだ。グーグルのショッピングサイトやスマホ用基本ソフト「アンドロイド」を対象にした過去の調査が、同社の中核事業にほとんど影響を及ぼさなかったのとは、全く事情が違う。
アップル株主や、他の米巨大IT企業の投資家は、先行きに不安を持たなければならない。
●背景となるニュース
*欧州委員会は16日、アップルに対し欧州連合(EU)競争法(独占禁止法)違反の疑いで2件の調査を開始した。
*1件目は、iPhoneユーザー向けなどのアプリ販売市場「アップストア」が対象。欧州委のベステアー執行副委員長は、アップルが自社の購入システムをユーザーに事実上強制している点が競争法違反ではないかと懸念している。昨年、スウェーデンの音楽配信大手スポティファイが苦情を申し立てていた。
*2件目は決済サービス「アップルペイ」に関するもので、ベステアー氏は小売店がアップルペイを利用する際の条件や、アップルがiPhoneを通じた決済のために重要になる技術を同業者が利用できないようにしている点に着目している。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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