コラム:ボーイング後任CEOが直面する財務と信頼の危機
Robert Cyran
[ニューヨーク 23日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米航空機大手ボーイングがデニス・ミューレンバーグ最高経営責任者(CEO)を操縦席から追い出したことは、少なくとも一時的に同社に幾分の安定をもたらすだろう。デービッド・カルホーン会長を後任CEOに充てる取締役会の決定により、規制当局や顧客との関係をリセットするチャンスを得る。
ただCEO交代は、2件の墜落事故を起こし運航停止が続いている主力旅客機「737MAX」や同社の倫理的風土を巡る問題が、当初の想定より深刻である可能性も示唆している。
経営幹部が交代しても、ボーイングが財務面で危機に直面していることに変わりはない。3月から続く737MAXの運航停止は同社の財務を大きく圧迫している。昨年の利益の約3分の2は民間航空機の販売で稼ぎ、納入した航空機の約7割は737MAXが占めた。納入の遅れに伴う顧客への返金や、熟練労働者の維持、重要なサプライヤーの支援にも費用がかかる。ボーイングは第3・四半期に負債を247億ドルへと3割近く増やしたが、永遠に続けることはできない。
長期的な信頼性への打撃はいっそう深刻だ。ミューレンバーグ氏は737MAXの早期の運航再開を繰り返し約束したが、実現できなかった。ユナイテッド航空は737MAXが自社の運航スケジュールに復帰するのは6月以降になるとの見通しを示した。米連邦航空局(FAA)のスティーブ・ディクソン局長は、早期の運航再開を求める「圧力に屈しない」よう促すメモを職員に送らなければならなかった。
カルホーン氏への交代は新たなスタートへの希望を与える。737MAXに関するすべての問題をオープンにすることが最優先されなければならない。CEO交代や長引く運航停止は、国内外の規制当局が追加のソフトウエア修正や操縦士訓練を求めている可能性を示唆する。最悪の場合、機体の構造変更を求められる可能性もある。航空機の販売減少を見込んで評価損を計上することもあり得る。
カルホーン氏は、利益率の上昇や資本還元で投資家を喜ばせることより、技術を基盤とする同社のルーツや、安全性の高い最先端の航空機を設計することに再び軸足を移す必要もある。ゼネラル・エレクトリック(GE)のエンジン部門トップや、10年務めたボーイング取締役としての経験が有益になるだろう。ただ、カルホーン氏が会計士の経歴を持つことや、737MAXを巡る問題が生じた時期を通して取締役を務めたことは、ボーイングが真に昔の信念を取り戻していない表れかもしれない。
●背景となるニュース
*ボーイングは12月23日、ミューレンバーグCEOの辞任を発表した。来年1月13日付でデービッド・カルホーン会長がCEO兼社長に就任。それまではグレッグ・スミス最高財務責任者(CFO)が暫定CEOを務める。[nL4N28X3F9]
*ボーイングは12月16日、737MAXの生産を来年1月から一時停止すると発表した。346人の死者が出た2件の墜落事故を受け、FAAは3月に737MAXの運航停止を命じた。[nL4N28Q4LD]
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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