コラム:ルビコン渡るインドネシア中銀、国債引き受け周到に準備
Una Galani
[ムンバイ 9日 ロイター BREAKINGVIEWS] - インドネシア中銀が用意周到にタブーを犯そうとしている。同国中銀は政府が発行する国債400億ドルの一部を直接引き受ける計画だ。
日米欧の中銀も、流通市場で大量の国債を買い入れているが、政府から直接国債を買い入れるのは、今なお禁じ手とされている。
ただ、新興国の先陣を切ってタブーを犯すインドネシアは、少なくとも用意周到に一線を超えようとしている。
インドネシア政府は確かに支援を必要としている。新型コロナウイルス対策に伴う歳出拡大で、今年の財政赤字は国内総生産(GDP)比で6%を超える見通しだ。
普段は多額の国債を購入してくれる海外投資家も、新興国国債の保有には慎重になってきている。
スリ・ムルヤニ財務相が今週概要を発表した「負担共有」計画の下で、中銀が政府を支援すれば、借り入れコストを抑えられるはずだ。
中銀は2通りの方法で政府を支援する。まずGDPの約2.5%に相当する280億ドルの新規国債を政府から直接引き受け、金利収入も政府に返還する。
さらに、入札で発行する新規国債120億ドルについては、財務省と中銀が共同で利払い費を負担する。ダイワ・キャピタル・マーケッツとバハナ証券の推計によれば、中銀が負担するコストは年間25億ドル前後だ。
こうした計画には、異例とは言えない側面もある。例えば、欧州中央銀行(ECB)は、流通市場で買い入れた国債の金利収入をユーロ加盟国に返還している。
インドネシアは、国債価格の透明性を保つ体制も整えている。中銀が買い入れる国債は、流通市場で取引可能とする計画で、中銀には国債を売却するという選択肢がある。長期国債を購入する投資家も、流通市場があれば、含み損が発生していないか確認することができる。
とはいえ、これで心配は無用だとは言い切れない。今回の計画は一回限りの措置とされているが、来年以降も延長されれば、中銀の独立性が問われかねない。インドネシアは新型コロナの感染者が多いホットスポットであり、ワクチンの開発には長い時間がかかる。今回の措置が延長される可能性は十分にある。
同じような問題を抱える新興国は、インドネシアの状況を注視するだろう。先進国が気づいているように、紙幣を刷る輪転機のスイッチを切るのは容易なことではない。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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