コラム:新型コロナの影響で色あせた米雇用統計の重要度

コラム:新型コロナの影響で色あせた米雇用統計の重要度
米国の2月の雇用状況を見ると、労働力人口1億6400万人余りのうち失業者はわずか580万人だった。写真は新型コロナ感染拡大の影響で業務を取りやめているニューヨーク州の労働局。3月20日、ニューヨーク市で撮影(2020年 ロイター/Andrew Kelly)
Richard Beales
[ニューヨーク 2日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米国の2月の雇用状況を見ると、労働力人口1億6400万人余りのうち失業者はわずか580万人だった。ところが先週だけで、660万人もが失業保険を新規に申請した。これを踏まえると、いつもなら緩やかに推移する経済の流れを探る手掛かりのはずの月次雇用統計は今や、単に新型コロナウイルスの大流行の突発的な影響を伝えるデータにすぎない。3日に発表される3月雇用統計も、通常であれば重視されるが、今回はもう古い話として片付けられてしまう。
労働省が2日発表した3月28日までの新規失業保険申請件数(季節調整済み)は、前週の330万人から大幅に増加して過去最多を更新した。米経済のほとんどの分野が活動を休止している以上、失業者が過去2週合計の失業保険申請で示唆している約1000万人から、数日間でさらに増えると考えるのが恐らくは妥当だ。2月の月次データを調整すると、ここ数カ月過去最低の3.5%で推移してきた失業率は、10%に向かうだろう。
そこで3月の非農業部門雇用者数と失業率について、ロイターがまとめたエコノミスト予想がそれぞれ前月比10万人減と4%弱にとどまるというのは、何とも奇妙に見受けられる。非農業部門雇用が2月の27万3000人増から大きく下振れるのは間違いないとはいえ、減少幅がこの予想の2倍だったとしても、現実の惨状を示すには全く不十分となる。
なぜこんなギャップが生じるかというと、月次の雇用統計の調査が3月の第2週に実施されたことが原因だ。当時はまだカリフォルニア、ニューヨーク両州の知事が正式な外出禁止令を発出する前だった。経済が置かれている深刻な事態は、5月上旬に発表される4月雇用統計でもっと明確に反映されるとみられる。
雇用統計が持つ意味合いは突然変化してしまった。足元の失業者の多くは、景気サイクルが上向くまで、あるいはそれ以上路頭に迷うのではなく、工場や飲食店が再開できるようになれば再び働くことができるはずだ。米国ではほとんどの場合、採用と解雇を雇い主が自由に行い、連邦政府が債務上限問題に伴う資金繰りひっ迫局面で職員に対して実施したように、従業員を一時帰休させることで、失業保険申請の引き金になる。そして失業保険給付金は、議会が先週可決した新型コロナ対策で増額された。暗いニュースばかりの中で、小さな光が灯った形だ。
期待されるのは、新型コロナ感染拡大防止のための各種措置がいったん緩和されれば、状況改善も悪化の際と同じぐらい未曽有のスピードで進むことだ。もっともそうした局面になっても、雇用統計の大幅な上振れはもはや市場や人々にショックを与える力を失っているのではないか。
●背景となるニュース
*米労働省が2日発表した3月28日までの新規週間失業保険申請件数は、660万人強だった。前週の330万人を大きく上回り過去最多を更新した。前週時点で、それまでの最多記録だった1982年の69万5000人の5倍近くに急増していた。
*労働省は3日に3月雇用統計を発表する。2月の非農業部門雇用者数は前月比27万3000人増。ロイターがまとめたエコノミストの3月予想は10万人減だった。[]
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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