コラム:揺らぐ日産社長の権威、株主の忍耐いつまで続くか

コラム:揺らぐ日産社長の権威、株主の忍耐いつまで続くか
 9月5日、不当な上乗せ報酬を受け取っていたことが明らかになった日産自動車<7201.T>の西川広人社長。写真は3月12日、神奈川県横浜市で撮影(2019年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
Pete Sweeney
[香港 5日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 不当な上乗せ報酬を受け取っていたことが明らかになった日産自動車<7201.T>の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)。
報酬の虚偽記載や特別背任の罪を問われているカルロス・ゴーン被告に比べ、金額そのものは小さいが、この問題の所在は他にある。西川氏は日産の信用も業績も立て直しておらず、投資家には辛抱し続ける理由がない。西川氏はトップの座に長居しすぎた。
西川氏は社内の人気投票を勝ち抜いてきたわけではない。ただ、ゴーン被告逮捕後に、そこそこのつなぎ役として一部で期待されていた。ゴーン被告は不正を否定しているが、その疑惑により、ただでさえ微妙になっていた仏ルノーとの関係が揺らいだ。
そして今回、西川氏と複数の役員経験者が、株価に連動して受け取る役員報酬について、社内規定に違反して不当に上乗せされていたことが社内調査で明らかになった。
日本国内の報道によると、西川氏は不正を認め、原因はゴーン体制にあると釈明。不正に受け取った報酬を返還する考えを示した。
西川氏は日産の企業統治全体を監督する立場にあり、その権威は報酬不正受領疑惑で傷ついた。
日産の経営が良好であれば、投資家は今回の疑惑を大目に見ようとしたかもしれない。しかし、残念ながら西川氏はいかに経営が悪化しているかを何度も見誤ってきた。
5月には業績が底を打ったと投資家に説明したが、7月に見通しが間違っていたことが判明した。日産の4─6月期決算は純利益が前年同期から約95%減の64億円となり、営業利益率は4%から0.1%に落ち込んだ。
一方で、彼が打ち出した経営戦略の軌道修正には首を傾げざるを得ないものが多い。例えば人員削減。対象のほとんどが、日本より成長している海外市場だ。日産は経営が正常した証だとして、9月5日に社債の発行を再開し、2500億円を調達する予定だった。
しかし、ディールウォッチなどの報道によると、起債は延期された。
ゴーン被告の不正疑惑を受け、西川氏は最悪の局面に対処し、米国市場で痛みを伴う戦略変更を押し進め、大規模な人員削減を発表し、後継者に道を開いた。良くも悪くも、こうした段階は完了した。
西川氏は、経営改革を成し遂げれば退任すると言明していた。株主は速やかにその約束を果たすよう求めるだろう。
●背景となるニュース
*日産自動車の西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)と複数の役員経験者が、株価に連動して受け取る役員報酬を巡り、社内規定に違反して不当に上乗せした金額を受け取った疑いがあることが分かった。4日に監査委員会で報告された社内調査で判明した。9月中に開かれる取締役会で社内処分を検討する予定。ロイターが5日、関係者の話として報じた。
*時事通信などの5日の報道によると、西川社長は報酬の不正受領を認め、不正に受け取った分を返還する考えを示した。日産はコメントしていない。
*カルロス・ゴーン前会長の側近だった日産前代表取締役のグレッグ・ケリー氏は6月に発売された月刊誌「文芸春秋」7月号のインタビューで、西川社長が2013年に、株価に連動した報酬を受け取る権利「ストック・アプリシエーション権(SAR)」の行使日をずらし、4700万円上乗せした報酬を得たと述べていた。
*リフィニティブの関連会社ディールウォッチは5日、日産が西川社長の不正報酬報道を受けて、5日に予定していた社債の起債を延期したと報じた。日産は起債で約2500億円を調達する計画だったという。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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