コラム:米レポ市場混乱の理由、FRBは何が必要か

コラム:米レポ市場混乱の理由、FRBは何が必要か
 10月8日、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が表明したバランスシートの再拡大は、いわゆる量的緩和(QE)への回帰ではなく、先月に起きた短期金融市場の不安定化への対応だ。.写真はニューヨーク証券取引所。10月3日撮影(2019年 ロイター/Brendan McDermid)
Anna Szymanski
[ニューヨーク 8日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 債券買い入れが復活しようとしている。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は8日、FRBのバランスシートを再び拡大すると表明した。これは正式に言うと、いわゆる量的緩和(QE)への回帰ではなく、先月に起きた短期金融市場の不安定化への対応だ。
金融機関が債券を担保に差し入れて資金を借り入れるレポ市場は、普段はどんな動きになっているか見えない。ニュースになるのは、2008年のリーマン・ブラザーズ破綻など、何か悪いことが起きた時だけだ。最近のレポ市場の混乱は、リーマンショック当時に比べればずっと小さいが、FRBにとっては軌道修正が必要なサインだった。
BREAKINGVIEWSは、レポ市場に何が起きたかや金融危機後の短期市場の変化、FRBの動きや果たすべき役割などをQ&A形式で以下にまとめた。
Q:混乱の発端は
A:9月半ばに複数の要因が重なり、米金融システムで資金需給がひっ迫した。法人税納付期限を迎え、同時に直近の国債入札の決済日でもあったため、銀行が米国債に資金を移した結果、彼らがFRBに置いている超過準備が11年以降で最低水準になったのだ。
このためレポ市場の借り入れ需要は、出し手が通常の金利水準である2%近辺で提供できる規模を上回り、レポ金利が10%まで跳ね上がった。その時点で、ニューヨーク連銀が市場安定化に乗り出してきた。
Q:レポ市場でFRBは今何をしているのか
A:実質的に実体経済に資金を流し込む作業をしている。ニューヨーク連銀は、JPモルガンやシティグループといったプライマリーディーラーに対して、質の高い債券と引き換えに毎日数十億ドルを供給し、プライマリーディーラーが貸し出せる資金量を増やしている。
そこでプライマリーディーラーは他の銀行やヘッジファンドなど資金がほしい金融機関とレポ取引を行う。金融システムに日々新たな資金が入ることで、FRBはレポ金利を押し下げようとしている。
FRBの資金供給はややタイミングが遅れ、やり方もぎこちなかったとはいえ、金利を通常レベルに下げることに寄与した。現在も毎日数十億ドルの供給を続けており、先週には11月初めまで1日当たり最低750億ドルを翌日物レポ市場に注入すると述べた。
Q:単に大手行が貸し出しを増やせば済んだのでは
A:そうかもしれない。大手行は恐らく、9月も貸し出しに回せる超過準備があっただろう。だがレポ市場に資金を出すことが、ビジネス上妥当な判断だったという意味ではない。
10年前の金融危機後に、規制当局は賢明にも、現金や国債といった比較的安全な資産を銀行がより多く保有することを義務化し始めた。これで銀行の手元流動性が一段と貴重になっている。半面、レポ取引はそれほど収益性が高いわけではない。また銀行は、危機の際には現金だけが「本当のキャッシュ」だと学んでいる。だから彼らは適切な手元流動性の規模について、当局の指示ではなく内部のリスク管理モデルに基づいて決定している。
Q:短期金利安定化は金融危機前からFRBの仕事だったのでは
A:確かに。しかし危機で全てが一変した。08年以前は、FRBは主として債券買い切りや債券の買い戻し条件付き売却(レポ)、売り戻し条件付き購入(リバースレポ)といった公開市場操作(オペ)を通じて、短期金利をコントロールしてきた。目標は、銀行間翌日物取引の指標であるフェデラルファンド(FF)金利をFRBの誘導範囲に収めることだった。
この仕組みが機能したのは、FRBのバランスシートが1兆ドル未満と小規模だったからだ。負債サイドの大半は貨幣流通高で、超過準備はごくわずかだった。
ところが危機後に導入したQEでバランスシートが一時約4兆5000億ドルまで膨張。資産の急増に沿う形で、貨幣流通高とともに超過準備も巨大化したのだ。
超過準備が微小だった際には、その規模をコントロールすれば短期金利の操作が可能だった。しかし危機を経て超過準備が非常に大きくなった段階で、FRBは調節方法の変更を迫られ、今や主な手段は超過準備に適用する付利(IOER)と、リバースレポ・オペの金利となり、2つを通じて短期金利に下限を設定している。
Q:足元でまた何が変わったのか
A:パウエル氏は、危機対応型の政策運営モードから脱却するため、バランスシートを縮小させる取り組みを進めてきた。過去10年で貨幣流通高が倍増して1兆8000億ドルに達したこともあり、危機前の水準に戻る流れではなかったとはいえ、5年前のピークからこの夏までに3兆8000億ドル弱へと圧縮されている。同じ期間で超過準備はおよそ半減して1兆4000億ドルを下回った。
そして9月のレポ市場の混乱からは、そろそろ安定的な短期資金の取引を維持する上で、限界が迫ってきたことがうかがえる。だからこそパウエル氏は、また超過準備を増やそうと考えているわけだ。
もっとも(1)短期市場を落ち着かせるのに必要な超過準備はどの水準か(2)バランスシート縮小がFRBの短期金利安定化能力を弱体化させたのか(3)危機後に使われた非伝統的手段は長期的な意図せざる副作用をもたらすのか──といった疑問の答えはだれも知らない。
Q:この新しい世界でFRBに期待される行動は
A:予断を持たないことだ。FRBは現在、規制当局と金融政策運営者という2つの役割の間で板挟みになっている。銀行により多くの現金を保有してほしいが、市場の柔軟な働きも望んでおり、両者は矛盾する。
FRBは当面、短期市場に十分な資金が確実に出回るようにバランスシートの拡大を続けなければならないのではないか。多分、向こう半年間の拡大幅はピーターソン国際経済研究所が示唆するように、2500億ドルになるだろう。
さらにFRBは、随時実施する現行のレポ取引を通じた調節手段を恒久化するかもしれない。銀行としては、いつでも保有債券と引き換えに現金を確保できるので、手元流動性を安心して減らせる。
FF金利の存在感が薄れる一方なのでレポ金利を政策金利とすることや、銀行の資本基準の見直し、短期市場における市場シェア分散化などを目指す可能性も考えられる。
いずれにしてもFRBは立ち止まるわけにはいかない。QE時代の金融政策に完全に終止符を打つのは簡単ではないし、いつになるかも分からないのは、8日に表明された通りだ。最近のレポ市場の混乱は、警鐘として役立てるべきで、柔軟性の低下した市場にはより機動的なFRBが必要だ。
●背景となるニュース
*米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は8日、バランスシート拡大に向けて債券買い入れの再開計画を公表する意向を示した。9月半ばに始まったレポ市場の不安定化に対応した形だ。[nL3N26T3MB]
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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