コラム:トランプ流「自作自演」の貿易戦争 米中合意に冷めた視線
Anna Szymanski Jennifer Saba
[ニューヨーク/マイアミ 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米政府が中国との貿易協議で「第1段階」の合意に署名したことに、米国の労働者が複雑な思いを抱くのは無理もないことだろう。トランプ米大統領は、これで製造業と農業の労働者に追い風が吹くと言う。間違っていない。しかし、それはトランプ氏自身が始めた「自作自演」の貿易戦争によって、労働者が被った痛手からの回復という意味だ。
トランプ氏が世界に残した教えがあるとすれば、それは機能不全の通商関係を「修復しない」方法であり、労働者を犠牲を伴う教えだった。
中国の劉鶴副首相を招いて15日に開かれた署名式は、中国が20年前に世界貿易機関(WTO)に加盟して以来続く両国の確執の歴史において、一つの節目となった。とはいえ、トランプ氏が関税を引き上げ始めてこの方、彼が守るはずの産業はかえって弱体化した。
昨年12月に米連邦準備理事会(FRB)が公表した調査報告書によると、雇用は失われ、コストは上がった。米供給管理協会(ISM)によると、12月の製造業活動は2009年以来の低水準に落ち込んだ。
中国との第1段階合意にどんな効果があるかと言えば、状況がこれ以上悪化するのを食い止めるのがせいぜいだろう。
米国農家にも戦利品はある。補助金だ。政府が承認した280億ドルの補助金は、対中輸出の減少による痛みをある程度和らげた。米農務省の推計では、昨年の農家の純収入で連邦政府の補助は30%超を占めた。それでも昨年9月までの1年間で、家族経営型の農家の破産は25%近くも増えている。
このため、今回の合意と、向こう2年間で農産物輸出が320億ドル増えるという約束を懐疑的に見る農民がいるのは無理もない。
農業、漁業、畜産業の従事者約20万人を代表する全米農業者組合は15日、合意が詳細を欠いていると指摘。貿易戦争のせいで組合会員が諸外国から信頼に足る貿易相手として見てもらえなくなる可能性に懸念を表明した。
米国の労働者には、中国の経済政策に怒る正当な理由がある、というトランプ氏の出発点は正しい。ピーターソン研究所によると、中国は国内総生産(GDP)の3%相当を国内企業の補助に回している。この比率は、昨年の米国の国防予算にほぼ等しい。
オバマ前大統領は、ルール本位の多国間制度に従い、自ら貿易障壁を取り除いて範を示すだけでは中国の勝手な行為を止められないことを学んだ。トランプ氏が証明したのは、反対に多国間制度を破り捨ててみても、やはり効果は得られないということだけだ。
●背景となるニュース
*米中両政府は15日、貿易協議の「第1段階」合意に署名した。中国が向こう2年間で米国の農産物や工業品の輸入を2000億ドル増やすと保証する内容。
*具体的には、2017年の実績に比べて農産物の購入を320億ドル、工業品を777億ドル、エネルギーを524億ドル、それぞれ増やす。
*裁判所のデータによると、小規模な家族経営型の農家の破産に適用される連邦破産法第12条の申請件数は、昨年9月までの1年間に580件と、前年比24%増え、2011年以来で最多となった。
*米労働省労働統計局によると、12月の製造業雇用は1万2000人減少した。FRBは12月に公表した調査報告書で、関税引き上げの影響が大きい産業で、雇用減少の傾向が強いと指摘した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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