コラム:トルコが描く経済の軟着陸シナリオ、軍事行動で水の泡か
Dasha Afanasieva
[ロンドン 8日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トルコ政府の経済シナリオが外交政策の犠牲になりかねない情勢だ。最近はインフレが鎮静化し、通貨リラも比較的落ち着いているため、中央銀行は追加利下げの余地が生まれ、2020年に5%成長を目指すエルドアン政権を支えられるはずだった。
しかし利下げ余地は消える恐れが出てきた。
米軍がシリア北部から撤収を開始したのを受け、トルコは8日、同地域での新たな軍事作戦の準備を完了したと表明した。これにより、米国と長年協力してきたクルド人勢力をトルコ軍が攻撃する道が開かれた。
攻撃すれば政権はトルコ国内で得点を稼げるかもしれないが、投資家の受けは良くない。トランプ米大統領が7日、トルコがシリアで「禁じ手」に出ればトルコ経済を「壊滅させる」と脅しをかけただけに、なおさらだ。
リラは8日、ドルに対して1カ月ぶりの安値を付け、先週末比では2.4%下落した。トルコの主要株価指数も下がり、ドル建てソブリン債は2日連続の下落となった。輸入物価を押し上げる水準までリラが下がれば、金融緩和頼みの経済政策は脱線しかねない。
エルドアン氏がチェティンカヤ前中銀総裁を突如解任した7月以来、中銀は2度利下げを実施した。今月4日発表された経済指標でインフレ率が10%を切り、約3年ぶりの低水準となったことで、追加利下げも予想されている。
米連邦準備理事会(FRB)が7月から利下げを始めたおかげで、トルコ中銀が利下げをしてもドルに対するリラの下落を誘発する可能性は小さくなった。こうした良好な環境を背景にアルバイラク財務相は先週、向こう2年間の経済計画を示すに当たり、経済のソフトランディングを宣言することができた。
しかしトルコ軍の作戦が経済政策を圧倒するようなら、この自信は勇み足になるかもしれない。トルコは昨年、米国人牧師の拘束を巡り米国から制裁を科されていた。その二の舞となれば経済はひどい打撃を被るだろう。
トルコは対外債務の規模にも懸念がつきまとう。リラの下落が加速すれば、中銀は通貨を支えるか、成長を後押しするかの選択を迫られるだろう。
●背景となるニュース
*米軍がシリア北東部から撤収を開始したのを受け、トルコは8日、同地域での軍事作戦の準備を完了したと表明した。米国と協力してきたクルド人勢力をトルコ軍が攻撃する道が開けた。
*トランプ米大統領は7日、トルコ軍の侵攻が一線を超えればトルコ経済を「壊滅させる」と警告した。
*トルコ政府は9月30日、2020年の成長率見通しを5%に引き上げる一方、インフレ率見通しを8.5%に引き下げた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
Opinions expressed are those of the author. They do not reflect the views of Reuters News, which, under the Trust Principles, is committed to integrity, independence, and freedom from bias.