コラム:米製造業が苦しむトランプ政権の「自滅政策」

コラム:米製造業が苦しむトランプ政権の「自滅政策」
 9月3日、米供給管理協会(ISM)が発表した8月の製造業景気指数は3年ぶりに節目の50を割り込んだ。写真は米自動車大手ゼネラル・モーターズの生産ライン。8月22日、テネシー州で撮影(2019年 ロイター/Harrison McClary)
Tom Buerkle
[ニューヨーク 3日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米国の製造業は気の休まる暇がない。米供給管理協会(ISM)が発表した8月の製造業景気指数は3年ぶりに節目の50を割り込んだ。トランプ大統領が主導する中国との貿易戦争は、製造業のためというのが表向きであるものの、実際には強烈なしっぺ返しを受けている。今後発動される新たな関税によって苦境が増す恐れもある。少なくとも米経済において製造業が果たす役割は縮小しているが、それが逆にホワイトハウスの政策の無益さを際立たせている。
トランプ政権は9月1日から靴やスマートウオッチを含めた1250億ドルの中国産品に15%の追加関税を適用し、中国との関税合戦をエスカレートさせた。JPモルガンの試算では、これまでに導入された関税で米国の家計には年間で1000ドルもの追加的なコストが発生している。現時点でトランプ政権は12月にさらに1500億ドルの中国産品にも追加関税を発動する予定だ。
これらの措置は、米製造業の活動を大きく抑制する。なぜなら重要部品などの費用を増大させるほか、世界全体の貿易を冷え込ませるからだ。中国の報復関税も、米製品の需要を減退させてしまう。ISMのデータを見ると、景気指数が縮小しているだけでなく、新規受注も2012年以来の低水準に沈んだ。
過去の例に照らせば、ISM景気指数の50割れは、最近の米国債市場における2年債と10年債の利回り逆転(逆イールド)と同様に景気後退(リセッション)を警告するサインとなる。実際投資家も無視できず、S&P総合500種は1%近く下落し、米国債利回りは低下が進んだ。
幸いなことに米経済における製造業のウエートは小さくなっている。第2・四半期国内総生産(GDP)に占める財の割合は25%弱とサービスの半分程度にすぎず、1990年に労働者の6人に1人だった製造業従事者は今では10人に1人も達しない。
だからなぜトランプ氏が貿易や関税にこだわるかの謎は深まる。米国の貿易赤字についてほとんどのエコノミストは消費者の生活を向上させると主張しているのに、トランプ氏は米国の富を奪うとみなしている。貿易戦争も製造業に救いの手を差し伸べることを想定しているとはいえ、現実には最初に痛みを受けるのが製造業だ。今までのところまだ傷口はそれほど大きくない。だが貿易戦争が長引くほど、米国がリセッションに突入する確率は高まっていく。そろそろ政策論議で「墓穴を掘る」という言葉を話題にすべきだ。
●背景となるニュース
*米供給管理協会(ISM)が3日発表した8月の製造業景気指数は前月の51.2から49.1に低下し、景気拡大・縮小の分岐点である50を3年ぶりに割り込んだ。
*米政府は9月1日から、靴やスマートウオッチ、フラットテレビなど1250億ドルの中国からの輸入品に対して15%の追加関税適用を開始した。10月1日には2500億ドルの中国からの輸入品向けの関税率を引き上げ、残る1560億ドルの中国からの輸入品にも12月15日に追加関税を発動する予定だ。
*中国は9月1日、米国から輸入する原油に5%の関税を適用した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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